消費者トラブル

はじめに
消費者契約法
◆目的と構成
◆消費者法の具体的内容
1.どのような契約が対象となるのか
2.契約を取り消すことのできる消費者取消権について
◆消費者取消権が行使されるとどうなるのか・・・
3.消費者契約において無効となる条項について
4.消費者契約と他の法律の関係について
5.消費者団体訴訟について
特定商取引法
◆特定商取引法とは・・・
1.訪問販売
◆訪問販売とは
◆事業者の義務
◆訪問販売での禁止事項
◆クーリング・オフについて
◆法改正による追加事項
2.通信販売
◆通信販売における広告規制
◆前払式通信販売
◆通信販売と電子商取引
◆法改正による追加事項
3.電話勧誘販売
◆電話勧誘販売とは・・・
◆電話勧誘販売の特質と問題点
◆電話勧誘販売に対する規制
◆電話勧誘販売におけるクーリング・オフ
4.連鎖販売取引
◆連鎖販売取引とは
◆連鎖販売取引における規制
◆連鎖販売取引におけるクーリング・オフ
◆その他連鎖販売取引における契約者保護制度
5.特定継続的役務提供契約
◆特定継続的役務提供契約とは
◆特定継続的役務提供契約における禁止行為と規制
◆クーリング・オフ
◆中途解約
◆契約の申込みまたはその承諾の意思表示の取消し
6.業務提供誘引販売取引
◆業務提供誘引販売取引とは
◆業務提供誘引販売取引に対する規制
◆救済措置
7.訪問購入
◆訪問購入とは
◆訪問購入に対する規制
8.ネガティブ・オプション
◆ネガティブ・オプションとは
◆ネガティブ・オプションと規制
割賦販売法
◆割賦販売法とは
◆割賦販売法で規定されていること



訪問販売や電話勧誘販売による強引な押し売り、エステ、英会話学校などの売買契約に関するトラブルや、利用した覚えのないアダルトサイトや出会い系サイトからの架空請求、銀行などの偽サイトに誘導して暗証番号を盗み出すフィッシング詐欺など、消費者トラブルは至るところに存在していて後を絶ちません。
商品の販売やサービスの提供をしている事業者が物やサービスの売買に関する契約や法律詳しい反面、一般の消費者はそういった取引に不慣れなため、悪意のある事業者にうまく利用されてしまう結果様々な消費者トラブルが生じてしまうのです。

消費者が事業者と契約をするとき、両者の間には持っている情報の質・量や交渉力に格差があります。このような状況を踏まえて弱い立場にある消費者の利益を守るために消費者契約法・特定商取引法・割賦販売法といった法律が規定されています。

これらの法律は消費者に不当に不利な契約が結ばれないようにするためのルールを定めるとともに、不当な行為を行った事業者に対して行政処分や罰則を課すことで消費者を保護しています。

かつては、個々の消費者トラブルをそれぞれの担当の省庁が個別に取り扱っていたため対応が十分ではなかったことを汲んで、消費者庁が2009年(平成21年)5月に関連法の成立後、同年9月1日に発足しました。
各省庁が管轄する分野はさまざまであるため、以前は、消費者が被害を受けても、そのことを相談できる窓口が一本化されておらず、相談しにくかったり、あるいは相談したとしてもその情報が監督省庁まで届かないことがありました。
また、行政の仕組み上、どの省庁の管轄下の問題なのか不明な隙間事故が発生した場合、対応ができないもしくは対応が大幅に遅れてしまうというような問題もありました。
この消費者庁はそうした問題に対処すべく設置されたわけです。
また、消費者庁や関係省庁の消費者行政全般に対して監視機能を有する第三者機関として内閣府本府に消費者委員会消費者庁と同時に設置されました。

消費者被害は、私たちの日常生活における様々な取引において発生するものですから、その態様等は、社会事情に影響されるものです。
近年のインターネット取引の増加、高齢者及び認知症高齢者等による消費者被害の増大、悪質業者の増加等の社会事情を踏まえ、各々の法律も平成に入ってから二度ほど改正されています。



消費者契約法

◆目的と構成

消費者契約法は一般の消費者と事業者が契約する際に、消費者に不利な契約が結ばれないようにするためのルールを定めた法律です。
その対象となるのは一般の消費者と会社などの事業者との間で結ばれる契約です。
もともと契約のルールを定める法律として特定商取引法、割賦販売法がありましたが、その両者による保護は法律で定められている一定の取引に該当しないと適用されないため、消費者一般を保護することにはなりませんでした。そこであらたに消費者契約法(平成12年法律第61号。2000年(平成12)に成立し、2001年4月より施行)が制定され、消費者契約を広くその対象として消費者一般を保護するようになりました。

その構成は、以下のように大きく3つに分けられています。

(1)この法律は消費者と事業者が結んだ契約全てが対象です。
(2)契約を勧誘されている時に事業者に不適切な行為があった場合、契約を取り消せます。

不適切な行為とは・・・・・
・嘘を言っていた。
・確実に儲かるとの儲け話をした。
・うまい話を言っておいて、都合の悪いことを知っていて隠していた。
・自宅や職場に押しかけて「帰ってくれ」等と言ったにも関わらず帰らなかった。
・事業者から呼び出されたりして「帰りたい」等と言ったにも関わらず帰してくれなかった。
消費者契約法
(3)契約書に消費者の権利を不当に害する条項は無かったことになります(無効)

そのような条項として・・・・・・
・事業者が損害賠償をすることを全部免除しているもの
・事業者が損害賠償を何があっても一部に制限しているもの
・法外なキャンセル料を要求するもの
・遅延損害金で年利14.6%を超えて取ろうとするもの
・その他消費者の利益を一方的に害するもの

最後に、消費者契約法と民法や商法、その他の法律との関係と、消費者被害が生じた場合に被害の拡大を防止するための消費者団体訴訟制度についての規定が書かれています。

それではその構成順に内容を詳しく見ていきましょう。


◆消費者法の具体的内容

1. どのような契約が対象となるのか

消費者契約法は一般の消費者と事業者が契約する際に適応されるもので、事業者と事業者の間で結ばれた契約(事業者間契約)は対象とはなりません。

消費者とは
そこでまず、「消費者」という言葉の定義をはっきりさせる必要があります。
ここで言う「消費者」とは、普通一般の個人を意味していて、事業として契約の当事者になる者は含まれません。
分かりやすく言うと、公務員や会社員、学生や主婦といった人は殆ど「消費者」として認められますが、株式会社や公益団体といった法人は「消費者」にはあたないということです。
では、美容院や飲食店などのサービス業を営んでいる個人事業主はどうなるのでしょうか?
個人事業主は自らの事業運営に際して様々な契約を行っていますが、同時に一般の生活者でもあります。なので、事業主として一般の「消費者」から外してしまうと生活に支障をきたす場合も出てきます。

例えば、自宅でピアノ教室を営んでいる人が生徒に使用させるためのピアノをもう一台購入する契約をした場合、その契約は事業のためのものになるので「消費者」には該当しません。しかし、訪問販売の業者から「先生が美しい方が生徒さんに受けがいい」などと強引に勧められて化粧品を購入させられたという場合、ピアノの指導と化粧品の間には直接の関係はありませんから、「消費者」としての契約とみなされ、消費者契約法の保護が適応されることとなります。

個人事業主の場合は以上のように、交わした契約の内容や状況によって「消費者」とみなされたりされなかったりします。


事業者とは
それでは「事業者」はどうでしょうか。日本の法令上、同種の行為を反復、継続、独立して行うことを事業といい、それを行うものを「事業者」といいます。
事業者は以下の3つに分類されます。

(1)法人
生物としての人間ではないものの、独立した権利主体・行為主体・責任主体として「人」として認められているものを「法人」といいます。
具体的には国、都道府県などの公共団体のほか、株式会社や財団、社団、宗教団体などの公益法人などがあります。

(2)その他の団体
法人格を持たないまでも、集まって何らかの継続した事業を行っている団体も事業者とみなされます。
法人格を有しない社団又は財団が含まれ、各種の親善、社交等を目的とする団体、P.T.A.、学会、同窓会等や法人となることが可能であるがその手続を経ない各種の団体がこれにあたります。

(3)事業を行う個人
いわゆる個人事業主のことで、株式会社等の法人を設立せずに自ら事業を行っている個人をいう。
具体的には、病院・診療所を開設する開業医、施術所を経営する鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師、薬局を経営する薬剤師(商店主)、理容所を経営する理容師(商店主)、飲食店を経営する調理師などや、医師、弁護士、公認会計士、税理士などの自由業もこれにあたります。




2. 契約を取り消すことのできる消費者取消権について


さて、冒頭でも述べた通り、この法律の目的は、業者との契約をめぐるトラブルから消費者を守ることにあります。
もともと、事業者と消費者との間には歴然とした情報量、交渉力の格差が存在しています。そしてこのことが、事業者と消費者との間で締結された契約において発生する紛争の背景となる場合が多かったわけです。

したがって事業者には、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮することが求められるとともに、消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供することが求められます。

一方、規制緩和・撤廃後の自己責任に基づく市民社会においては、消費者も契約の当事者としての責任を自覚し、その責任を果たさなければならないことから、消費者には、消費者契約を締結するに際しては、事業者から提供された情報を活用し、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について理解することが求められることとなります。
つまり全く無条件に消費者が保護されるわけではありません。

以上の理由により、消費者契約法では第3条(事業者及び消費者の努力)において、事業者・消費者双方の努力義務を規定していて、事業者並びに消費者双方にそれぞれの努力が必要であることを明記しています。

ただ、ここで求められているのはあくまで努力や配慮であって、これを怠って発生したトラブルについて事業者に何らかの罰則が与えられるわけではありません。そこで、消費者契約法では第3条以下の条項で、不当な条件下で結ばれた契約を消費者が取り消すことができる場合を明確に定義しています。

これを消費者取消権といいます。
それではどのような場合一度結んでしまった契約の取り消しができるのでしょうか?


契約の取り消しが認められるケース

  内容 具体例
誤認  1.不実の告知
重要事項について事実と異なることを告げ、消費者を誤認させること。

普通のバッグを有名ブランドの「新作」などと嘘をつき高価な額で買い取らせた場合
2.断定的判断の提供
物品、権利、役務その他の契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項について断定的判断を提供して、消費者を誤認させること。

「この銘柄の株の値は数年後には倍近くまで上がりますよ」などと不確定な将来の価格変動に対して断定的なことを言い、多額の株券を買い取らせた場合
3.故意による不利益事実の不告知
契約内容の重要事項に関連して、消費者の利益になることを説明しながら、不利益な部分についてわざと隠し説明せずに消費者が誤認した場合。

マンションの販売業者が「眺望・日当たりは良好です」とのみ説明し、隣接地に眺望や日照をほとんど遮るビルが半年後に建設予定であることを認識しながら告げなかった場合
困惑  4.不退去
事業者に対し消費者が、その住居またはその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思表示を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。

教材のセールスマンが商品の説明を止めず、「子どもが寝るので帰ってくれ」と言ったにもかかわらず、ずっと居座り相手に根負けさせて商品を購入させた場合
5.退去妨害または監禁
業者が契約の締結について勧誘をしている場所から消費者が退去する旨の意思表示を示したにもかかわらず、その場所から消費者を退去させないこと。

装飾品の展示会の会場で数人の販売員で客を取り囲み、誘い文句を次々と浴びせるなど、執拗な勧誘行為で追い込みなかなか返さずに契約させた場合
注)誤認とは、事業者による「不実告知」「断定的判断の提供」「不利益事実の不告知」などにより、消費者が誤った認識を持つことをいい、
困惑とは、困り戸惑い、どうしてよいか分からなくなるような、精神的に自由な判断ができない状況をいう。


不利益事実の不告知とは・・・

例えば分譲マンションを販売する業者の場合、消費者と少しでも多く契約したいわけですから「日当たり良好」「眺望抜群」「駅近」などといった消費者にとって有利になる情報は積極的に伝えてくるでしょうが、「災害時に地盤が液状化する可能性がある」とか「近隣に工場があり時間帯や風向きによって時々へんな臭いが流れてくることがある」などといった消費者が契約を躊躇してしまうような情報については消費者側から訊かれない限り、進んで伝えてこないことがあります。これが不利益事実の不告知です。

上の具体例のように「重要事項」とは、契約内容(原材料や大きさ、重量、用途など)や契約条件(価格や支払方法、提供手順)に関する事項の中で「消費者の契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」のことを言います。

そして、この不利益事実の不告知を事業者が故意(事実を認識していながらわざとやったということ)に行った場合には、その契約に対して消費者取消権が認められています。

ただし、気を付けなければいけないのは、その場合でも取消権が認められない場合があるということです。

一つは、事業者が告知しなかった事実が、重要事項やそれに関連する事項に該当しない場合、また事業者がわざわざ告知しなくても、消費者が通常の知識や注意力を持っていればその不利益の存在を認識できた場合で、もう一つは、事業者が重要事項にあたる事実を説明しようとしたにもかかわらず消費者がそれを拒否した場合です。

消費者法の具体的内容


事業者の不退去、退去妨害とは・・・

消費者トラブルでよく問題となるのが「帰ろうとしたのにセールスマンが返してくれないので仕方なく契約した」とか「いつまでたっても帰ってくれないので仕方なく契約した」といった例です。

消費者の住居や職場に、消費契約の締結を目的としたセールスで訪れた事業者が、消費者の意に反して帰らない(退去しない)ことを不退去といい、一方、事業者が契約締結の勧誘を行っている場(商品の説明会場や展示場)から、消費者が帰りたいという意思表示をしているにもかかわらず、色々な理由をつけたり多人数で取り囲むなどして帰さないことを退去妨害といいます。

いずれの場合も、その事実が認められれば契約の取り消しが認められますが、消費者がはっきりと意思表示をしていることが大前提です。
不退去の場合は、訪問販売に来たセールスマンに「帰ってください」とか「出て行ってください」などの直接的な言葉で意思表示した他に

①時間的な余裕がない旨を消費者が告知した場合
 例:「時間がありませんので」「いま取り込み中です」「これから出かけます」と消費者が告知した場合

②当該消費者契約を締結しない旨を消費者が明確に告知した場合
 例:「要らない」「結構です」「お断りします」と消費者が告知した場合

③口頭以外の手段により消費者が意思を表示した場合
 例: 消費者が、手振り身振りで「帰ってくれ」「契約を締結しない」という動作をした場合


退去妨害の場合も、展示販売会場から「帰らしてください」とか「もう帰ります」などとはっきり相手に伝えた場合の他、

①時間的な余裕がない旨を消費者が告知した場合
②当該消費者契約を締結しない旨を消費者が明確に告知した場合
③口頭以外の手段により消費者が意思を表示した場合
 例:消費者が帰ろうとして部屋の出口に向かった場合
 手振り身振りで「契約を締結しない」という動作をしながら消費者がイスから立ち上がった場合などすべての場合が消費者の意思表示として認められています。


◆消費者取消権が行使されるとどうなるのか・・・

さて、それでは実際にこの取消権が行使されるとどうなるのでしょうか?

まず、取り消しが認められると取り消された行為は最初から無効であったものとみなされます。また、消費者契約の申し込みまたはその承諾の意思表示についても同様に、初めから無効だったものとして扱われます。
したがって、民法121条の規定にある原状回復義務の規定により、当事者は契約の申し込みや承諾の意思表示によって生じた効果について、元通りに戻す義務が生じます。
具体的には次のような行為が必要です。

①消費者がすでに支払った商品代金等の金銭があれば、事業者はその商品代金等の金銭を消費者に返還する。

②消費者がすでに受け取った商品等の物があれば、消費者はその商品等の物を事業者に返還する。

ただし民法の原状回復義務の規定だけによると、消費者が受領した商品を費消した後に、契約を取り消した場合にも費消した分の客観的な価値を返還しなければならなくなり、その分の代金を支払ったのと同じ結果になり、不当勧誘行為による「やり得」を認めることになりかねません。
そこで、消費者契約法の改正により既に消費してしまった分の代価も支払う必要がなくなりました。

具体例でわかりやすく説明すると

消費者が、事業者から1箱1万円のダイエットサプリメントを5箱5万円で購入したところ、2箱(2万円分)を使った後で、事業者による勧誘の際に、そのダイエットサプリメントに含まれる成分の副作用に関する不実告知があったことが判明し、消費者が取消権を行使したとします。
以前は 消費者は未使用の3箱を事業者に返還するとともに、代金5万円を事業者から返還してもらう過程で、すでに消費してしまった2箱分の価値の2万円を事業者側から請求されるため、結局は未使用分の代金しか戻ってきませんでした。
つまり、費消したサプリメント2箱の対価(2万円)を支払ったのと同じ結果となっていたわけです。しかし、これでは消費者に、消費者契約法に基づく取消権を認めた趣旨が失われる結果となりかねませんので、改正後の消費者契約法では、消費者取消権を行使した場合、消費者は残っている3箱のダイエットサプリメントを返還するだけでよくなりました。

消費者取消権が無効

消費者取消権が無効の場合
消費者を擁護するための取消権ですが、その権利が有効に使えない例外もあります。それが「善意の第三者」に対しての場合です。
民法では、詐欺や脅迫があったという事実を知らずに取引に関わった人に不利益を被らせないために、詐欺などによる意思表示の取り消しは「善意の第三者」に対抗することができないときていしています。
ここでいう「善意」とは、詐欺や脅迫などの事実を知らなかったといういみです。

「善意の第三者」について、具体例をあげて説明します。
BさんがAさんを騙し、Aさん所有の物を不当に安い値段でBさんが買ったとします。
Aさんは騙されたので、この売買契約を取り消すことができます。
取り消しの効果は、初めに遡って「売買がなかったこと」となります。
しかし、取消前にBさんが善意の第三者であるCさんにその物を転売していた場合は、Aさんはその契約の取り消しを遡ってCさんには主張できないのです。

この場合、Cさんが「善意の第三者」であるというのは、「AB間の売買契約が、Bの詐欺によるものであった」という事実を知らないということです。
なので、民法の規定(96条)により、Cさんは保護されます。
つまり、詐欺などの事実を知らなかった「善意の第三者」には、消費者取消権が無効であるということです。


◆媒介の委託を受けた第三者及び代理人

第三者という言葉が出てきたついでに説明しておくと、この消費者取消権は実際の取引にあたって、仲介者や代理人がかかわってきた場合でも適用されます。
通常、勧誘や意思表示などの契約にかかわる行為をするのは当事者です。
しかし、例えば賃貸マンションの契約などでその不動産の所有者が賃貸借の事務手続きをすべて不動産会社に委託している場合、借主と貸主の当事者同士は直接顔を合わせることもなければ、連絡を取ったこともないというのが普通です。
また、保険会社が自社の損保保険商品を代理店に委託している場合や、携帯電話会社が家電量販店に携帯電話の販売を委託知っている場合なども同様です。
このように、実際の取引では契約の相手が事業者本人ではなく仲介者や代理人であることの方が多いのが実情です。
なので、このような契約の場合でも「第三者」つまり媒介者や代理人の行為は契約の当事者のものとしてみなされ、契約の際に嘘の事実を伝えたり、重要な事実を伝えなかった場合、消費者はその契約を締結してしまった後でも消費者取消権を行使できます。


消費者取消権はいつまで有効なのか・・・

さて、この消費者取消権ですがその行使は無期限に何時でも行えるわけではありません。取消権の原則ルールを定めている民法の規定では、取消権は追認をすることができる時から5年間行使しないと消滅するとなっています。また、行為をした時から20年経過したときも消滅することになっています。

ここでいう追認とは、取り消すことのできる法律行為の取消権を放棄する意思表示をして、契約を確定することです。つまり消費者には追認によっていったん結んだ契約を取り消さない自由も認められているのです。
例えば、業者の執拗な勧誘によってやむなく購入した商品が意外と使い勝手がよく、そのまま使用を継続すると相手方に伝えた場合これが追認にあたります。
ただし、追認を行う際には少なくとも消費者が取り消しの原因となるような状況から解放され、正常な判断を下せるようになっていることが前提です。
つまり誤認の場合であれば、消費者が事業者による「不実告知」「断定的判断の提供」「不利益事実の不告知」などにより、事実と異なる認識を持っていたことに気付いた時、困惑の場合であれば、事業者が自宅から退去したとき、あるいは消費者が勧誘の場から退去したとき、追認をできる時が始まります。


消費者取消権の行使期間

先に述べたように民法でのルールでは、例えばある事業者と契約をした場合消費者がその契約を取り消すことができるのは、自分が騙されていたと気づいてから5年以内、もしくはその契約を結んでから20年以内と決められています。
しかし、実社会において消費者と事業者の間で交わされる消費者契約は頻繁に繰り返し行われるものであり、トラブルがあった場合に出来るだけ早速やかに
安全性や安定が確保される必要があります。
そのため消費者契約法ではその期間が民法より短く設定されています。
消費者取消権追認できる時から1年 注)行わないと時効によって消滅します。また、取り消すことのできる消費者契約の締結の時から5年経過したときも消滅します。

注)平成28年改正以前は、短期の取消権の行使期間は、「追認できるときから6ヶ月間」でしたが、消費者被害ができる限り救済されるよう、「追認できるときから1年間」に伸ばされました。
消費者取消権



3.消費者契約において無効となる条項について

消費者契約法は、事業者と消費者との間に情報の質・量、交渉力に構造的な格差があることから、消費者取消権の他に、事業者の損害賠償の責任を免除する条項を無効とすること(同法8条)、消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等を無効とすること(同法9条)のほか、消費者の利益を一方的に害する条項を無効とすることを定めています(同法10条)。

つまり契約書などにあらかじめ条文として明記されていても、それが消費者の権利を不当に害するものであった場合は、その条項は最初から無かったことになります(無効)。

どういう場合か以下に表にまとめました。

内容 具体例
① 事業者の債務不履行時、消費者に生じた損害を賠償する責任の全部または一部を免除条項がある場合 コインパーキングでパーキングの車止めに不具合が生じて使用者の車両が損傷したが、そこの看板には「当駐車場における盗難・事故については一切責任を負いません。」と書かれていた。
②当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部または一部を免除する場合 ゴルフのレッスンプロから実技指導を受けている時にレッスンプロの振ったクラブに当たり、指を骨折したが受講契約書には「受講中に生じた事故等については責任を負いません」と書かれていた。
③目的物に瑕疵がありその損害賠償責任のすべてを免除する条項がある場合 契約時に「完璧なリホーム済み」と説明があり、マンションを購入したが、1年も経たないうちに水道管の老朽化が発覚した。しかし、契約書には購入後の責任を認めない旨の条項があった。
④解約違約金が高額な場合 購入後のパソコンについての設定や操作を説明するなどのアフターフォローの契約をし、しばらくして解約した。しかし、契約書に6ヶ月以内の解約には違約金20万円がかかると書かれていて、その額を請求された。
⑤遅延利息が高額な場合 消費者金融でお金を借りたが返済期限までに返せなかったので違約金が発生した。完済してから計算してみたら、利息が20%以上になっていた。
⑥民法による信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項 遠方へ引越をした後でスポーツジムの退会手続きをするため書類をFAXか郵便で送ろうとしたが、来店のみの受付との事で断られた。

①事業者の債務不履行時、消費者に生じた損害を賠償する責任の全部または一部を免除条項がある場合

債務不履行とは、債務者が債務の本旨に従った履行をしないことをいいます(民法415条)。

債務不履行は、民法上、3つに分けることができます。
1.履行遅滞
 契約した期日を過ぎても守らない場合。
2.履行不能
 契約時は履行可能であったが、その後に履行が不可能(後発的不能)になった場合。
3.不完全履行
 契約は果たされたけれど、完璧ではない場合。

このような場合、消費者は事業者が契約で定めた約束事を守らなかったことを理由に、損害賠償請求できます。
しかし、事業者としては後から問題が発生した場合に、責任を負うことを避けたいので、あらかじめ損害賠償の責任を免除する条項を契約書の条文に入れることがあります。
「この契約の履行において消費者に何らかの損害が生じたとしても事業者は一切責任を負わない」とか「契約履行後に何らかの不具合が生じたとしても事業者には責任はないものとする。」などといった内容のものです。
契約の時点では「契約書の内容に同意する」という意思表示をしていたとしても、契約に不慣れな消費者はそういった特約にさえ気付いていない場合があります。
「契約の自由」を原則としている民法では結ばれた契約は当事者双方の納得の上のものとして扱われ、消費者は十分に保護されていませんでした。
そこで、後からつくられた消費者法では消費者を保護するために、契約の際に条文に盛り込まれた事業者の損害賠償の責任を免除する条項(特約)無効となるとされました。
そのため、条文に「この契約の履行において消費者に何らかの損害が生じたとしても事業者は一切責任を負わない」というような内容が記載されていても事業者には損害賠償の責任が生じます。

また、条文に「目的物が事業者に責任ですべて使用不能になった場合のみ責任を負う」というような一部限定的な表現で「損害を賠償する責任の一部を免除する条項」があった場合でも、事業者に故意(どのような結果になるかあらかじめ知っていた)や重過失(不注意の程度が甚だしいこと)がある場合には、無効となり事業者には損害賠償の責任が生じます。


②当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部または一部を免除する場合。

不法行為とは故意又は過失により他人の権利又は法律上保護された利益を侵害した場合をいいます(民法第709条)。

不法行為の典型例は交通事故です。事業者が故意にした場合はもちろんですが、意図していなくとも不注意や過失によって生じた損害については債務不履行の場合と同じように、条文に「この契約の履行において消費者に何らかの損害が生じたとしても事業者は一切責任を負わない」というような内容が記載されていても事業者には損害賠償の責任が生じます。
また同様に、事業者に故意または重過失がある場合には「損害を賠償する責任の一部を免除する条項」があっても無効となります。

なお、不法行為と債務不履行とでは挙証責任において次の違いがあります。

・不法行為 →債権者に債務者の故意・過失を立証する責任があります。
・債務不履行→債務者の責に帰すべき事由は、債務者に立証する責任があります。(つまり債務者は自分に落度がないことを立証しない限り責任を免れません)

③目的物に瑕疵がありその損害賠償責任のすべてを免除する条項がある場合

契約の目的物に一見しただけでは判らないような瑕疵(欠点・欠陥)があった場合に事業者が負う責任を瑕疵担保責任と言いますが、「引渡し後に発見された瑕疵については一切責任を負いません」などという特約がある場合があります。
しかし、金銭が絡む現実の契約では、そのような一切の瑕疵担保責任を回避するような条項は無効とされます。

ただし、条項の中に
 1.目的物を瑕疵のない物と交換する責任について定めた規定
 2.目的物の瑕疵を修理補修する責任について定めた規定
がある場合は消費者の正当な利益が侵害されているとはいえないので無効にはなりません。
また、債務不履行や不法行為の場合と違って瑕疵担保責任の場合、その一部を免責するような特約があった時は、その部分についての損害賠償責任は追及できないことになっています。

④解約違約金が高額な場合 ⑤遅延利息が高額な場合

例えば、あるレストランで婚礼の2次会の依頼を受け、会場の設営や料理の準備、支給人の手配などを手配していたにもかかわらず、直前になってキャンセルになったとします。レストラン側は、当日の他の予約を断っていたにもかかわらず、見込んでいた収入が得られなくなるばかりか会場の設営費や準備していた料理の食材にかかった費用まで無駄になるわけです。こうした将来債務不履行で損害が生じた場合に備え、契約の時点で「キャンセル料」などの名目で、損害賠償金を確保することを損害賠償額の予定といいます。

しかし一般の消費者の側からすると、損害賠償額の内訳などは詳しくわかる訳もなく、それが事業者に生じる平均的な損害の額を超えていても相手の主張に従わざるを得ません。
 そこで、消費者契約法の9条では、契約の解除に伴う損害賠償の額が社会的に見て妥当性のある額を超える場合その分については無効になると定めています。

また、同9条では消費者が金融機関などからお金を借りていて、その返済にあたって金銭支払債務の履行がおくれた場合の損害賠償(遅延賠償)にも上限を設けています。そこでは年14.6%を超える額は無効となります。
この規定は家賃を滞納している場合にも当てはまり、賃貸借契約書に14.6%を超える遅延損害金が記載されていても、それを超える分は無効となります。

⑤民法による信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項

信義則とは社会共同生活の場で、権利の行使や義務の履行にあたっては相手方の信頼や期待を裏切らないように誠意をもって行うことを求める法理、信義誠実の原則のことをいいます。
例えば,家具を買って配達してもらうとき,家具屋の契約上の義務は,家具を届けること.しかし信義則上,配達先の壁や床を傷つけないように気をつける義務もあります(付随的注意義務)。
ここまでみてきたのは、消費者契約における損害賠償の取り決めでどのような不当な条項が無効となるのかということでした。
しかし、消費者に不利益が主応じるのは損害賠償に関わることだけではありません。
契約書の中には「消費者からの契約解除は、いかなる理由があってもこれを認めない。」と消費者の解除権を一方的に侵害したり、「消費者が当事業所の責に帰する事由により契約解除を申し出る場合は、その事由を自ら証明することを要する」などと本来事業者が行わなければならない証明責任を消費者に転嫁している場合は、信義則に反するとして無効になります。

このように、消費者の権利を制限するかもしくは義務を加重する消費者契約の条項で、消費者の利益を一方的に害するものは無効となります。


4.消費者契約と他の法律の関係について

消費者契約法では最後に消費者契約と他の法律の関係について規定しています。

その前にここで、少し法律の区分について説明しておきます。

法律には、地域・人・事項に関係なく広く適用される、基本的なルールを定めた「一般法」と、特定の地域・人・事項にのみ適用される「特別法」があります。

民法は、私人間の法律関係を定める一般法であり、消費者契約法や特定商取引法は、そのうち事業者(企業など)と消費者との間の関係を定める、特別法という関係に立ちます。

では、そもそもなぜ、特別法というものが存在するのでしょうか。

社会生活や市場メカニズムが進んでくると、社会にそれまで存在しなかった新しい現象が起こって来て、従来の法秩序の考え方では解決できない問題が生じてくることがしばしばあります。

これらの問題については、法解釈で対応できる場合は対応しますが、解釈の範囲を超える場合には、立法による解決(新たな法律を作ること)によるしかありません。

しかし、ある分野における基本的な法律を頻繁に改正することは、法的安定性という意味で必ずしも好ましいことではありませんし、容易でもありません。そこで、これらの問題を解決するため、特定の分野について特別法を制定し、適切な解決を図ることが必要となるのです。

一般法
・広い範囲の人や事象などに適用効力を持つ法律のこと。
・普通法ともいう。
特別法
・より限定的な適用され人や事象などに適用効力を持つ法律のこと。
・一般法に優先して適用される。

では次に、どのような法律が一般法となり、どのような法律が特別法になるのでしょうか。

例として、以下の法が一般法と特別法の関係にあります。

一般法   特別法
民法   ⇒商法 (事業者間や商人においての契約では商法が優先)
独禁法  ⇒下請法(下請け会社との取引規制に関しては下請法が優先)
商法   ⇒金融商品取引法(証券などの金融商品の取引は金融商品取引法が優先)
民法・商法⇒消費者契約法(消費者契約の取り消し・無効については消費者契約法が優先)

このように、同じ法律でも一般法となる場合、特別法となる場合があります。要は“この法律は特別法だ”という絶対的な区別はなく、法と法との関係で相対的に判断されるということです。

民法や商法よりは消費者契約法、消費者契約法よりはこれから説明する特定商取引法割賦販売法の方がより限定的・専門的な法律となっていて、下の図のように、内側のものの方が外側の方に対して特定法となっています。
消費者契約と他の法律の関係

①民法・商法との関係

消費者契約法は、そもそも民法や商法をはじめとする既存の法律だけでは保護しきれなかった消費者の権利を保護することを目的として制定されたものです。

その主旨から、消費者契約法と民法・商法の規定が競合する場合は消費者契約法の方が優先されます

しかし、民法や商法などで規定されている事項で、消費者契約法には規定されていない事案については民法・商法が適用されます。

例えば、商品展示・販売場で事業者のしつこい勧誘により違法に高額な健康マットレスを買う契約をさせられた消費者がいたとします。

この場合消費者契約法では、消費者にはその事業者の退去妨害などの理由で、商品の購入という一度結んでしまった契約を取り消すことができる権利が認められています。
しかし、消費者がその買ったマットレスが意外と使い心地が良いために契約を取り消さずそのまま使うことを相手方に伝えた場合(いわゆる追認した場合)、その後の取消権については何も規定されていません。
その場合は、民法・商法の規定によって判断され、消費者が一度追認したものに関しては、取り消しが認められなくなります。

「追認行為」とは、「解約はしません。」という、意思表示です。
この追認の規定は民法にあり、解約するときに、とても大切なことなので、ここで、説明しておきます。
追認行為となるものは、以下のとおりです
解約する理由(騙されたことなど)を知ったあとに

1.代金の一部、又は全額を支払うこと
2.商品の引き渡しを請求したとき
3.商品を誰かに譲渡したとき
4.担保のために保証人を立てたとき
5.相手に強制執行したとき
6.この売買契約で払わなければいけない金銭を新たに消費貸借契約としてしまったとき


②民法・商法以外の法律との関係

消費者契約法の規定と、民法・商法以外の個別法の規定が抵触する場合には、原則として個別法の規定が優先的に適用されます
例えば、宅建業法と消費者契約法が適用される場合には、宅建業法が優先されます。
従って、宅建業者が自ら売主となる場合には、代金の2割の違約金を請求できます。

ところが、宅建業者でない法人が1回限り消費者に建物を、売却するようなケースでは別です。
宅建業者以外の法人が一回限り消費者に建物を売却して、これを宅建業者が仲介した場合には、宅建業者が自ら売主ではないので、宅建業法は適用されず、消費者契約法が適用になります。
この場合は事業者には平均的に生ずる損害額までしか請求できません。
(仮に契約書に損害賠償の予定額を代金の2割と定めても、全額請求できるとは限らない)

なお、宅建業者が売主の場合には、代金の2割の違約金の定めは原則有効です。

民法・商法以外の法律との関係



5.消費者団体訴訟について

「消費者団体訴訟制度」は「消費者契約法」の中で定められています。
消費者団体訴訟制度は、消費者契約法に最初に導入され、平成19年6月からスタートしましたが、どのような内容なのでしょうか。

2001年に施行された「消費者契約法」では、事業者の不当な行為によって誤認したり困惑したりすることによって結んだ契約を被害を受けた消費者は取り消すことができますが、これだけだと、常に「ひとつひとつ個別の対応」、かつ「事後の対応」になってしまいます。

今の時代の消費者契約法における被害というのは、事業者が不特定多数の消費者を対象として事業を行っているため、同様の被害が多発するという特徴があります。

そこで、そのような被害を一本化して消費者に代わって消費者団体が消費者全体の被害防止のために、事業者の不当な行為そのものを差止請求できるようにする「消費者団体訴訟制度」が2006年の消費者契約法の改正で創設されました。

◆差止請求
差止請求とは簡単に言うと、強引な勧誘、不当な契約、誤った内容の表示など、「消費者契約法」「特定商取引法」「景品表示法」を守らない事業者の不当な行為を止めることを求めることをさします。

実際には、事業者に対し当該不当勧誘行為を止めるように求める、当該不当条項を規定した契約を締結しないように求める(停止、予防)事業者が作成した従業員向けの勧誘マニュアルなどの破棄を求める(停止、予防に必要な措置)といった内容の請求です。

ただ、この差止請求は、本来は自由に行えるはずの事業活動を制限するものなので、誤った情報や不正な根拠により発動され事業者の営業活動が不当に侵害されるようなことがあってはなりません。

そのため、適格消費者団体になるためには

・特定非営利活動法人(NPO)または民法34条に規定している法人(社団法人、財団法人といった公益法人)であること
・消費者の利益を守るための活動を主な目的としている団体で、相当期間その活動を行っている実績があること
・組織体制や業務規程が整備されていること
・消費者被害の案件について分析したり、法的な検討を行ったりする専門性をもっていること
・経理的な基礎があること
 など、さまざまな要件が必要とされます。

これらの要件を満たした消費者団体が申請し、内閣総理大臣によって認定されると「適格消費者団体」となります。
このような消費者団体は令和3年1月の時点で21団体あり、以下のページで確認できます。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/collective_litigation_system/about_qualified_consumer_organization/list/

上に述べた差止請求の他に、消費者の財産的被害を集団的に回復するための裁判手続を追行することができる制度(被害回復)が2016年10月から導入されました。

◆被害回復

2016年10月から、消費者裁判手続特例法の施行により、消費者トラブルを救済するためにつくられた新制度。

今までの「差止請求」では消費者被害を直接的に回復することができませんでしたが、事業者の不当な行為により、同じ原因で消費者が数十人程度被害を受ければ、適格消費者団体のうち一定の基準を満たし、内閣総理大臣から認定を受けた「特定適格消費者団体」が、消費者に代わって金銭的な被害回復を図る「消費者被害回復訴訟」を提起することができるものです。

被害回復とは、「特定適格消費者団体」が消費者裁判手続特例法に則り、事業者の不当な行為により、同じ原因で数十人以上の消費者が被害を受けた場合に、事業者に対して、消費者のために訴訟および裁判手続(2段階手続)を行うことで直接的に消費者の被害回復を請求できるものです。

通常の訴訟との違いは、
①消費者は直接、訴訟をする弁護士を探す必要がない。
②消費者は2段階目の訴訟手続きから参加するため、訴訟の時間を低減できる。
③一人で裁判を起こすよりも費用が押さえられるといった利点がある。
④拡大損害や人身傷害、慰謝料などはこの制度では賠償請求ができず別の裁判で争う必要があるなどです。

なお、被害回復の請求訴訟の対象になる消費者被害には条件があります。


対象になる消費者被害

1. 2016年10月1日以降に締結された消費者契約、または2016年10月1日以降の事業者の不法行為によるものであること。
2. 同じ原因で数十人以上被害が発生したものであること。
3. 次に該当する請求(事業者が消費者に対して金銭支払義務のあるもの)であること。
○契約上の債務の履行の請求(例:ゴルフ会員権の預り金返還)
○不当利得に係る請求(例:学納金返還、専門スクール等の解約時受講料清算悪質商法)
○契約上の債務の不履行による損害賠償の請求(例:本物として偽ブランド品を販売していた場合、有効成分が含まれていない健康食品)
○瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求(例:耐震基準を満たさないマンション)
○不法行為に基づく民法の規定による損害賠償の請求(例:詐欺的な悪質金融商品取引)

なお、以下の損害は対象外となります。
×拡大損害(契約目的以外の財産が滅失・損傷したことによる損害)
×逸失利益(目的物の提供があれば、得られたはずの利益)
×人身損害(人の生命・身体を害した損害)
×慰謝料(精神上の苦痛を受けたことによる損害)

4. 契約の相手方である事業者(債務の履行をする事業者、消費者契約の締結を勧誘し、勧誘させ、勧誘を助長する事業者)に対する請求であること。

適格消費者団体のうちから新たな認定要件を満たす団体として内閣総理大臣の認定を受けた法人を「特定適格消費者団体」といいます。全国に3団体(平成30年4月現在)あります。

以下のページで確認できます。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/collective_litigation_system/about_qualified_consumer_organization/list_of_specified/

(1)差止請求の流れ

差止請求の流れ

(2)被害回復の流れ

被害回復の流れ



特定商取引法

◆特定商取引法とは・・・

特定商取引法とは、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。 一般的にトラブルが発生しやすい特定の取引(具体的には、訪問販売や通信販売等)を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフ等の消費者を守るルール等を定めています。
対象となる取引とは以下のものです。


特定商取引法の対象となる類型

訪問販売 事業者が消費者の自宅に訪問して、商品や権利の販売又は役務の提供を行う契約をする取引の事。 キャッチセールス、アポイントメントセールスを含みます。
通信販売 事業者が新聞、雑誌、インターネット等で広告し、郵便、電話等の通信手段により申込みを受ける取引のこと。
電話勧誘販売 事業者が電話で勧誘を行い、申込みを受ける取引のこと。 電話をいったん切った後、消費者が郵便や電話等によって申込みを行う場合にも該当します。
連鎖販売取引 個人を販売員として勧誘し、更にその個人に次の販売員の勧誘をさせるかたちで、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品・役務の取引のこと。
特定継続的役務提供 長期・継続的な役務の提供と、これに対する高額の対価を約する取引のこと。 現在、エステティックサロン、語学教室など7つの役務が対象とされています。
業務提供誘引販売取引 「仕事を提供するので収入が得られる」という口実で消費者を誘引し、仕事に必要であるとして、商品等を売って金銭負担を負わせる取引のこと。
ネガティブ・オプション 注文していないにも関わらず商品を一方的に消費者宅に送り、強引に売買契約を締結させ、その代金を請求する取引。いわゆる送り付け商法のこと。
それでは、個々の取引についてどのような規制が設けられて、どのようなルールが定められているのか具体的に見ていきましょう。
特定商取引法とは


1.訪問販売

◆訪問販売とは

まず、訪問販売がどのような定義付けをされているかというと
 (主体)販売業者または役務提供事業者が
 (相手方)購入者等に
 (場所)営業所等以外の場所において
     特定の誘引方法による顧客については、営業所等において
 (対象)商品・役務・指定権利の
 (行為)契約申込みを受けて、または契約を締結して行う取引
のことをいいます。

販売業者とは商品を売る側のことで、役務提供事業者とは商品を売るのではなく、役務(サービス)を提供するもののことです。
一方、購入者とは、いわゆる消費者のことをいいます。

最も一般的な訪問販売は、消費者の住居をセールスマンが訪問して契約を行うなどの販売方法ですが、喫茶店や路上での販売、またホテルや公民館を一時的に借りるなどして行われる展示販売のうち、期間、施設等からみて、店舗に類似するものとは認められないものも訪問販売に該当します。

通常では店舗と考えられないホテルや公民館での販売においても
 ①その期間が最低2~3日以上であること
 ②商品を陳列し、消費者が自由に商品を選択できる状態であること
 ③展示場等の販売のための固定的施設備えている場所行っていること
という条件を満たしていれば店舗との場所での販売として扱われます。
つまり逆に言うと、上の条件を満たしていない場合は、訪問販売とみなされるということです。

また、営業所等で行われた契約であっても、訪問販売に該当する場合があります。たとえば、路上等営業所以外の場所で消費者を呼び止めて営業所等に同行させて契約させる場合(いわゆるキャッチセールス)や、電話や郵便、SNS等で販売目的を明示せずに消費者を呼び出したり、「あなたは特別に選ばれました」等、ほかの者に比べて著しく有利な条件で契約できると消費者を誘って営業所等に呼び出したりして契約させる場合(いわゆるアポイントメントセールス)がそれに当たります。

これが特定の誘引方法による顧客との取引です。
そして、その取引の対象となるものは、国民の日常生活に関係して取引されるあらゆる物品、役務と特定権利です。


特定権利とは施設を利用したり、役務の提供を受ける権利のうち、国民の日常生活に係る取引において販売されるものであって、政令で定めるものです。
具体的には以下のものをいいます。

特定権利 具体例
保養のための施設又はスポーツ施設を利用する権利 リゾート会員権ゴルフ会員権、スポーツ会員権
映画、演劇、音楽、スポーツ、写真又は絵画、彫刻その他の美術工芸品を鑑賞し、又は観覧する権利 映画チケット、演劇チケット、音楽会チケット、スポーツ観覧チケット、写真展チケット、美術展チケット
語学の教授を受ける権利 英会話サロン利用権
社債その他の金銭債権 無登録業者の未公開株式の販売や自社発行株

注)過去には、販売される商品・役務についても、指定商品・指定役務として列挙されていましたが、2008年(平成20年)の特定商取引法改正により、商品・役務については、限定することをなくし、権利についてのみ「指定権利」として限定されました。
その後、社会情勢の変化に伴い近年、未公開株や社債、二酸化炭素排出権取引等の投資商品に関する訪問販売及び電話勧誘販売に関する消費者トラブルが増加したことを鑑み、2016年(平成28年) 従来指定されていた権利のほか、社債等の金銭債権、株式等の社員権を規制対象として追加され、これらを「特定権利」と呼ぶとともに、従来の「指定権利」の名称は廃止されることになりました。

では、消費者を守るためこの法令の中で事業者にはどのような規制が設けられているのでしょうか。



◆事業者の義務

訪問販売では店舗販売と比べて消費者トラブルが発生する割合が高いので、特定商取引法では、事業者に次の義務を課しています。

①事業者の氏名等の明示

事業者は、訪問販売を行うときには、勧誘に先立って、消費者に対して以下のことを告げなければなりません。
 1. 事業者の氏名(名称)
 2. 契約の締結について勧誘をする目的であること
 3. 販売しようとする商品(権利、役務)の種類

訪問販売では、訪問者はまず「私は、○○(会社名等)の××です。本日は健康食品の販売に参りました。」というように明確に氏名、会社名等を伝えた後で訪問目的を告げなければなりません。
この場合、会社名などについては通称や略称などではなく商号として登録されているものでなければなりません。


②書面の交付

事業者は、契約の申込みを受けたときや契約を結んだときには、以下の事項を記載した書面を消費者に渡さなければなりません。
1. 商品(権利、役務)の種類
2. 販売価格(役務の対価)
3. 代金(対価)の支払時期、方法
4. 商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)
5. 契約の申込みの撤回(契約の解除)に関する事項(クーリング・オフができない部分的適用除外がある場合はその旨含む。)
6. 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
7. 契約の申込み又は締結を担当した者の氏名
8. 契約の申込み又は締結の年月日
9. 商品名、商品の商標または製造業者名
10. 商品の型式
11. 商品の数量
12. 商品に隠れた瑕疵(一見しただけではわからない不具合)があった場合、販売業者の責任についての定めがあるときには、その内容
13. 契約の解除に関する定めがあるときには、その内容
14. そのほか特約があるときには、その内容

このほか消費者に対する注意事項として、書面をよく読むべきことを、赤枠の中に赤字で記載しなければなりません。
また、クーリング・オフの事項についても赤枠の中に赤字で記載しなければなりません。
さらに、書面の字の大きさは8ポイント(官報の字の大きさ)以上であることが必要です。



◆訪問販売での禁止事項

さらに、特定商取引法では、訪問販売において罰則を伴う禁止事項として、以下の4項目を規定しています。

①不実の告知

売買契約等の締結について勧誘を行う際、または契約の申込みの撤回(契約の解除)を妨げるために、事実と違うことを告げること
よく知られている例では、セールスマンが消防署の職員を装って訪問し「各家庭に1台取付けが義務付けられています。」などと嘘を言って消火器を売りつける悪質訪問販売があります。
また、「これは、法令で義務付けられている物なので返品等は出来ません」などの説明をして販売するのも不実の告知にあたります。

②故意による事実・重要事項の不告知

売買契約等の締結について勧誘を行う際、故意に事実を告げないこと
「途中解約すると違約金がかかる」「維持費が毎月○万円かかる」など、消費者が知らないと損をする事項を伝えないまま契約することを事実不告知といいます。

③威迫行為・詐欺行為

売買契約を締結させ、または契約の申込みの撤回(契約の解除)を妨げるために、相手を威迫して困惑させること
『「買ってくれないと困る。」と声を荒げられて、誰もいないのでどうしてよいかわからなくなり、早く帰ってもらいたくて契約してしまった』とか、『クーリング・オフしたいと思って電話したところ、「残金を支払わないと現住所に住めなくしてやる。」と言われ、不安になってクーリング・オフの行使を思いとどまった』などという場合です。


④販売目的隠匿勧誘

勧誘目的を告げない誘引方法(いわゆるキャッチセールスやアポイントメントセールスと同様の方法)により誘引した消費者に対して、公衆の出入りする場所以外の場所で、売買契約等の締結について勧誘を行うこと

「公衆の出入りする場所以外の場所」とは、不特定多数の一般人が自由に出入りしない場所を指します。
具体的には、事業者の事務所、個人の住居、ホテルの部屋や会議室、公共施設等の会議室、カラオケボックス、貸し切り状態の飲食店等のことです。

「パーティーがあるから来ないか」等の誘い文句で会場に呼び出した消費者に執拗な勧誘を行い、消費者に無理やり商品を買わせた時のようなことをいいます。


◆クーリング・オフについて

クーリング・オフとは商品の購入後、消費者が思い直した場合に、申し込みの撤回や契約の解除をすることができる権利のことです。

契約を申し込んだり、契約をしたりした場合でも、法律で決められた書面を受け取った日から数えて8日間以内であれば、消費者は事業者に対して、書面により申込みの撤回や契約の解除(クーリング・オフ)ができます。

書面によるというのは、実際には「内容証明郵便」の場合がほとんどです。

8日以内というのがクーリング・オフの期限ですが、事業者がクーリング・オフの通知を受け取ったのは8日以降だったと主張しても、消費者が通知を発信した日が商品購入後から8日以内であれば有効です。それゆえ書面の発信日を確認できる「内容証明郵便」を使うことが安全かつ確実です。

クーリング・オフを行った場合、消費者は、すでに商品もしくは権利を受け取っている場合には、販売業者の負担によって、その商品を引き取ってもらうことや、権利を返還することができます。
また、商品が使用されている場合や、役務がすでに提供されている場合でも、その対価を支払う必要はありません。

また、消費者は、損害賠償違約金を支払う必要はなく、すでに頭金等の対価を支払っている場合には、すみやかにその金額を返してもらうとともに、土地または建物そのほかの工作物の現状が変更されている場合には、無償で元に戻してもらう(原状回復請求)ことができます。

◆消耗品について

訪問販売では上記のようにクーリング・オフが認められていますが、販売された商品のなかには、化粧品や健康食品のように、一度開封して使ってしまうと商品の価値が著しく下がり、返品が難しくなってしまうものもあります。
そこで、特定商取引法ではそのような商品を「指定商品(消耗品)」として定め、他の商品とは異なる扱いにしています。

消耗品として指定されているのは以下の商品です。

①健康食品など、動物や植物の加工品(一般の飲食用のものではなく、医薬部外品のもの)
②不織布及び幅が13センチメートル以上の織物
③コンドーム及び生理用品
④防虫剤、殺虫剤、防臭剤及び脱臭剤(医薬品を除く)
⑤化粧品、毛髪用剤及び石けん(医薬品を除く)浴用剤、合成洗剤、洗浄剤、つや出し剤、ワックス、靴クリーム並びに歯ブラシ
⑥履物
⑦壁紙
⑧居宅に医薬品の配置を行う配置販売業者が提供した医薬品

上記のような、いわゆる消耗品は一部でも使ってしまった場合は、たとえ購入してから8日以内であっても、クーリング・オフの規定が適用されません。
ここがその他一般の商品と大きく違うところなので、商品を手にしたとしても使用する前に注意が必要です。

また、現金取引の場合であって代金または対価の総額が3000円未満の場合にも、クーリング・オフは適用されません。


なお、質の悪い事業者が、クーリング・オフに関する事項につき事実と違うことを告げたり、威迫したりすることによって、消費者を誤認・困惑させてクーリング・オフをさせないことがあります。
これをクーリング・オフ妨害行為といい、先ほど説明したように禁止事項として規定されています。
ただ、先の禁止事項と違うのはそれに対する罰則が定められていない点です。

クーリング・オフした場合は、商品価格の50%を違約金として支払わなければならないと言われた。電話で解約を伝えたら、事務所に呼び出され再度契約するまで帰らせてもらえない。などの例がそうです。

そのような場合には、上記期間を経過していても、消費者はクーリング・オフができます。その時は消費者の要求したクーリング・オフに対しての事業者から書面の回答受け取った日から8日間クーリング・オフができます。

◆クーリング・オフができない場合

訪問販売であればどんな契約でもクーリング・オフできるのかというとそうではありません。
以下のような場合はクーリング・オフの適用対象から除外されます。

・海外にいる人への販売である場合はクーリング・オフ対象外です。
・事業者同士の取引はクーリング・オフ対象外です。
(事業主名の契約でも、実態が家庭・個人使用の場合はクーリング・オフ可能な場合があります)
・顧客に対する訪問販売はクーリング・オフ対象外です。
有店舗の業者の場合、ここ1年以内に1回でも取引があれば顧客への販売となります。
無店舗の業者の場合、ここ1年以内に2回以上の取引があれば顧客への販売となります。
・自分から業者を家に呼び寄せて契約した場合はクーリング・オフ対象外です。
ただし、販売目的を偽って家に呼び寄せさせた場合などはクーリング・オフの対象になります。
例えば、販売目的を隠して『モニター応募』を装うなど。


●損害賠償の限度額

損害賠償に関しては、クーリング・オフ期間の経過後、たとえば代金の支払い遅延等消費者の債務不履行を理由として契約が解除された場合には、事業者から法外な損害賠償を請求されることがないように、特定商取引法は、事業者が以下の額を超えて請求できないことを定めています。

1. 商品(権利)が返還された場合、通常の使用料の額(販売価格から転売可能価格を引いた額が、通常の使用料の額を超えているときにはその額)
2. 商品(権利)が返還されない場合、販売価格に相当する額
3. 役務を提供した後である場合、提供した役務の対価に相当する額
4. 商品(権利)をまだ渡していない場合(役務を提供する前である場合)、契約の締結や履行に通常要する費用の額

これらに法定利率年6%の遅延損害金が加算されます。



◆法改正による追加事項

社会情勢の変化に伴い、消費者トラブルもその様相を変えます。2005年頃から、判断能力の低下した高齢者などを狙って、同種の商品の契約を次々と締結させる被害(次々販売)が多発し、社会問題となりました。
こうした状況に対応するため、2008年の法改正では再勧誘の禁止、過量販売解除制度等が導入されました。

◆再勧誘の禁止

販売業者等が、訪問販売をしようとするときは、その相手方に対し、勧誘を受ける意志があることを確認する努力義務があります。
・販売業者等は、訪問販売にかかる売買契約または役務提供契約を締結しない旨の意思を表示した消費者に対し、その契約の締結を勧誘してはならない。
・拒否の意思表示があったときは、その場面で勧誘を継続することが禁止されるだけでなく、その後改めて訪問して再勧誘することも禁止されます。

つまり業者は一度商品購入を断った消費者を再び勧誘してはいけないことになっています。

◆過量販売解除制度

過量販売の被害の例としては以下のようなものが挙げられます。
・同一の業者が、同種の商品を何度も契約させる。(布団・呉服・宝石など)
・同一の業者が、一度に大量の商品を契約させる。(数年分の健康食品など)
・複数の業者が、過量販売になることを承知で同種の商品を契約させる(住宅リフォームなど)

その場合、勧誘・契約の際の状況にかかわらず
 ①「日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える」商品やサービスの契約であること
 ②契約から1年以上経過していないこと
の以上2点を満たせば、契約を解除することができるようになりました。


2.通信販売

通信販売」とは、販売業者または役務提供事業者が「郵便等」注1)によって売買契約または役務提供契約の申込みを受けて行う商品、権利の販売または役務の提供のことをいいます。

例えば新聞や雑誌、テレビ、インターネット上のホームページ(インターネット・オークションサイトを含む)などによる広告や、ダイレクトメール、チラシ等を見た消費者が、郵便や電話、ファクシミリ、インターネット等で購入の申込みを行う取引方法をいいます(ただし、「電話勧誘販売」に該当する場合は除きます)。

注1)「郵便等」には、郵便または信書便、電話機、ファクシミリ装置そのほかの通信機器または情報処理に用いられる機器を利用する方法、電報、預金または貯金の口座に対する払込み、のいずれかであれば該当します。

さてそれでは、この通信販売にはどのような利点や問題点があるのでしょうか。

通信販売のメリット・デメリット

メリット 消費者にとって、カタログやホームページを自由に比較検討できる。時間・場所の制約がなく購入できる。
事業者にとって、店舗・広告・接客のコストが安く営業できる。
デメリット
消費者にとって、商品・サービスを直接手に取って確認できない。事業者が掲げた広告表示だけで購入の判断をする。代金支払いと商品引渡しとの時間差がある。
インターネット通販は、クリックボタンの操作ミス、画面表示の範囲が不明確、などの要素が加わる。
インターネットの匿名性を悪用する業者もいる。
このようにメリットは消費者、事業者共にありますが、デメリットに関しては、消費者の側にしかありません。
結果として、立場の弱い消費者が被害を受けるトラブルが多発していました。
そこで特定商取引法では通信販売における規制を設けました。


通信販売を行う事業者にかかる規制の内容は以下のとおりです。

1. 広告の表示
事業者の氏名(名称)、住所、電話番号などを表示しなければなりません。
2. 誇大広告などの禁止
3. 未承諾者に対する電子メール広告の提供の禁止
4. 前払い式通信販売の承諾などの通知
5. 契約解除に伴う債務不履行の禁止
6. 顧客の意に反して申込みをさせようとする行為の禁止



◆通信販売における広告規制

そもそも通信販売とは、隔地者間の取引なので、消費者にとって広告は唯一の情報です。
そのため、広告の記載が不十分であったり、不明確だったりすると、後日トラブルを生ずることになります。
そのため特定商取引法は、広告に表示する事項を次のように定めています。

◆広告記載事項の義務

1. 販売価格(役務の対価)(送料についても表示が必要)
 送料が別途発生する場合には、販売価格と送料を別々に表示する必要があります。

2. 代金(対価)の支払い時期、方法
 支払時期とは、例えば「商品到着後1週間以内に」というように、購入者がいつまでに代金や対価の支払いをする必要があるかについての期限のことで、支払方法については、代引き、クレジットカード払い、銀行振り込みなど を具体的に表示することが必要です。

3. 商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)
 明確さが必要とされるため、具体的な日付を表示しなければなりません。
「○月○日まで」とか「○日以内」というように日付や日にちを明確にした表示でなければなりせん。

4. 商品(指定権利)の売買契約の申込みの撤回又は解除に関する事項(返品の特約がある場合はその旨含む。)
 いわゆる返品特約のことで、契約解除に関する事項で特約がある場合にはその旨を表示しなければならず、また特約がない場合にもその旨を表示しなければなりません。

5. 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
 事業者が法人の場合「名称」は登記上の「商号」をいい、「住所」は登記上の本店所在地を原則的に指しているが、登記上の記載と違い通称や俗称が「商号」より一般に周知されていたり、本店所在地ではない場所で長年業務を行っている場合などは、その限りではありません。
事業者が個人の場合も同様で、芸名やペンネーム、実際に長年住んでいる場所が、戸籍上の名前や住民票上の住所より優先されます。
なお、インターネット上のホームページなどでこれらの事項を表示する場合には、消費者が最初に見ることができるページ画面など冒頭部分に表示することが必要です。

6. 事業者が法人であって、電子情報処理組織を利用する方法により広告をする場合には、当該販売業者等代表者または通信 販売に関する業務の責任者の氏名
「電子情報処理組織を利用する方法により広告をする場合」とは端的に言うとインターネットで広告をする場合のことです。
インターネットの取引では、通販業者の「くもがくれ」によって消費者が被害を受けることが少なくないので、法人である事業者がインターネット上でホームページや掲示板あるいはメール等で通信販売の広告を行う場合にはその団体の代表者あるいはその業務の責任者の氏名を明示しなければなりません。

7. 申込みの有効期限があるときには、その期限
 「承諾の期間の定めのない申込み」については民法(524条)や商法(508条)にそれぞれ規定されていますが、事業者が独自に申し込みの有効期限を定めてそれらの規定とは異なる扱いをすることにした場合は、それを明示する必要があります。

8. 販売価格、送料等以外に購入者等が負担すべき金銭があるときには、その内容およびその額
 販売価格、送料等以外にも消費者が負担すべき費用としては、工事費、組立費用、設置費、梱包費や購入後に必要な定期的なメンテナンス費などがありますが、それらの費用もあらかじめ明記しておかなければなりません。

9. 商品に隠れた瑕疵がある場合に、販売業者の責任についての定めがあるときは、その内容
 いわゆる瑕疵担保責任のことで、民法の規定(570条、566条)にもありますが、それとは異なった条件を定める場合に明示する義務があることをのべています。したがって瑕疵担保責任について民法の規定に準じる場合には、あらためて表示する必要はありません。

10. いわゆるソフトウェアに関する取引である場合には、そのソフトウェアの動作環境
 ソフトウェアに関する取引とは次の3つことを指します。
 a) ソフトウェア等のコンピュータープログラムをCDなどの媒体に記録して販売する場合
 b) ソフトウェア等のコンピュータープログラムをインターネットを介してダウンロードさせ販売する場合
 c) 映画、音楽、演劇、スポーツや写真、絵画、彫刻などの美術品に関する電磁的データを配信し、顧客のコンピューターで鑑賞、閲覧させる場合

このうち c) については音や映像のデータをCDやDVDなどの媒体に記録したものを販売するだけの場合は動作環境の表示義務はなく、それらのデータと合わせて同じ媒体にそのコンテンツを表示するソフトウェアも入れて一緒に販売する場合や、音や映像のデータをダウンロードさせて鑑賞させる場合には表示義務があります。

表示義務のある動作環境とは、販売するソフトウェアを利用するのに必要なコンピューターのOSのバージョンやCPUの種類、メモリーやハードディスクの容量、動画再生ソフトのバージョンなどのことです。

11. 商品の売買契約を2回以上継続して締結する必要があるときは、その旨及び販売条件
 「商品の売買契約を2回以上継続して締結する必要があるとき」とは、通販でよくある健康食品の定期販売などのことをいいます。
「通常価格4000円のところ、定期にした場合、今だけ初回は半額の2000円。2回目以降は500円引き」などと広告に謳ってあっても、条件の表示が不十分であるために顧客のクレームが発生することがよくありました。
平成29年に改正された特定商取引法には、定期販売の広告表現について厳格な規定が盛り込まれました。
通販で定期販売の広告をするときは、2回以上継続して契約する定期販売に対して、
(1)定期である旨、(2)金額、(3)計約期間、(4)また特別な条件がある場合はその旨の記載が必要です。

12. 商品の販売数量の制限等、特別な販売条件(役務提供条件)があるときには、その内容
 上記8から11以外に商品の販売について特別な条件がある場合にはその表示が必要です。
例えば、法令の規制や規格上の問題から、商品を使用できる地域や条件に一定の制限がある場合や、支払方法がクレジット決済のみなどと限定されている場合には、その旨表記しなければなりません。

13. 請求によりカタログ等を別途送付する場合、それが有料であるときには、その金額
 消費者がカタログや説明書を取得するのにその対価や送料が必要な場合には、その金額を表示する必要があります。
また、インターネットのウェブ上でのカタログや説明書の提供については、ほとんどコストがかからないことから通常は無料とされていますが、その場合でもデータとしての「電磁的記録」の提供に対価を支払わせる場合にはその旨の明記が必要です。

14. 電子メールによる商業広告を送る場合には、事業者の電子メールアドレス
 詳しく述べると、以下の3つの事項の表示が義務付けられています。
 a) 販売業者または役務提供事業者の電子メールアドレス
 b) 相手方の請求に基づかず、その承諾も得ていない電磁的方法による広告である旨の表示
 電子メールのヘッダー部分に「未承諾広告」との表示が義務付けられています。
 c) 相手方が事業者からの電子メール広告の提供を希望しない旨の意思表示をするための方法



◆広告の表示事項を省略できる場合

広告の態様は千差万別であり、広告スペース等もさまざまです。
したがって、これらの事項をすべて表示することは実態にそぐわない面があるので、消費者からの請求によって、これらの事項を記載した書面 (インターネット通信販売においては電子メールでもよい)を 「遅滞なく」提供することを広告に表示し、かつ、実際に請求があった場合に「遅滞なく」提供できるような措置を講じている場合には、 下の表の通り、広告の表示事項を一部省略することができることになっています。

                  省略できる  省略できない×

 表示事項 販売価格・送料その他消費者の負担する金額
全部表示したとき 全部表示しないとき
代金等の支払時期 前払の場合 ×
後払の場合
代金等の支払方法
商品の引渡時期等 遅滞なく行う場合
それ以外 ×
返品に関する事項(返品の可否・返品の期間等条件、返品の送料負担の有無) × ×
販売業者の氏名(名称)、住所、電話番号
法人であって情報処理組織を使用する広告の場合に法人においては代表者名または責任者名
申込みの有効期限 × ×
商品の隠れた瑕疵に関する販売業者の責任 負う場合
負わない場合 ×
ソフトウェアを使用するための動作環境 × ×
商品の売買契約を二回以上継続して締結する場合の販売条件 × ×
販売数量の制限等特別の販売条件 × ×
請求により送付する書面の価格 × ×
(電子メールで広告するときは)電子メールアドレス × ×

◆誇大広告等の禁止

通信販売での広告の重要性は改めて言うまでもなく、それゆえに特定商取引法
では様々な表示における義務付けが規定されていますが、表示自体に関する規制の他に、消費者を契約締結に誘い込むような商品そのものに対する誇大広告も禁止されています。
誇大広告が禁止されている広告事項は以下の通りです。

①商品の種類、性能、品質もしくは効能、役務の種類、内容もしくは効果または権利の種類、内容もしくはその権利に係る役務の効果

 具体例は以下の通りです
商品の種類、性能、品質
パソコンのCPUの種類
デジカメの画素数
商品の効能
育毛剤の抜け毛予防効果
錠剤によるダイエット効果
役務の種類、内容
権利の種類、内容
会員性スポーツクラブでの利用出来る施設の種類や時間帯
語学教室での時間割やカリキュラムの内容
役務の効果
権利に係る役務の効果
語学教室による語学能力検定試験の成績向上

②商品の引渡しまたは権利の移転後におけるその引き取り、またはその返還についての特約
 いわゆる返品特約についてのことで、実際には返品を受け付けていないのに「返品可」と表示する場合がそれにあたります。

③商品、権利もしくは役務またはそれらを提供する事業者及びその事業者が営む事業についての国、地方団体やその他著名な法人や団体または著名な個人の関与
 具体的には「厚生労働省推薦」とか「東京都公認」など国や都道府県が関与していたり、それらの推薦を受けているような表示、また省庁や地方公共団体などに限らず「国土交通大臣認可」とか「東京都知事推薦」というような表記や「○○大学教授××氏の監修」などと個人名を用いた表示が対象になります。

④商品の原産地もしくは製造地、商標または製造者名
 原産地、製造地とは、「MADE IN JAPAN」、「MADE IN U.S.A」などの原産地表示や、商品の製造された場所や地域の表示のことです。
 「本場カシミール産のカシミヤを使用したセーター」などと重要な原材料の生産地についての表記もこれに含まれます。

⑤法令11条1項各号に掲げる事項
 先に述べた規制を受ける広告記載事項すべてについても当てはまります。

◆禁止される表示

上に掲げた事項に関して禁止されている表示は次の二つです。
 ①著しく事実に反する表示
 ②著しく優良・有利であると人を誤信させる表示
いずれの場合も「著しい」ということが前提で、その判断は通常の消費者の認識や理解に立って客観的にされるべきものとなっています。
消費者が事前にその表示と事実の食い違いを知っていれば契約しなかったと認められる場合は誇大広告になります。

そのような違反のおそれのある広告をした販売業者は、期間を定めて、当該広告に表示された内容の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出が求められます。販売業者等が資料を提出しないときは、当該広告は第12条の規定に違反する広告とみなされ、罰金や業務停止命令の対象となります。


◆前払式通信販売

 前払式通信販売とは、消費者が商品を受け取る前に代金を支払うという販売方法です。
事前の支払は、代金の一部である場合もあれば、全額の場合もありますが、こうした前払式通信販売では消費者は常に弱い立場におかれます。
事業者にとっては商品の代金を払ってもらえないリスクが極めて少ない販売方法ですが、消費者は商品を受け取るまでは「本当に品物が届くのか」安心できません。
そこで特定商取引法では、前払式通信販売について別に規定を設け、消費者を保護しています。

●事業者の義務

事業者が、商品・指定権利・役務について、申し込みをした者からその商品の引渡し・権利移転・役務提供をする前に代金・対価の一部または全部を受け取る前払式通信販売を行う場合には、消費者から申し込みを受け、その代金・対価を受け取った場合には、事業者には消費者に対し、承諾等の通知をする義務があります。
ただし、代金・対価を受け取った後直ちに商品の引渡し・権利の移転・役務の提供が行われた場合には、通知の義務はありません。

●通知の内容と方法

前払式通信販売における販売業者又は役務提供事業者の通知内容は次のとおりです。
1. 顧客からの申込みを「承諾する旨」又は「承諾しない旨」
2. 代金等の受領前に顧客からの申込を承諾する旨又は承諾しない旨を通知している場合は、既に通知している旨
3. 販売事業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号
4. 受領した金銭の額及びそれ以前に受領した金額があるときは、その合計額
5. 金銭を受領した年月日
6. 申込を受けた商品名・数量又は権利若しくは役務の種類
7. 申込をするときは、その商品の引渡時期、権利の移転、役務の提供時期

その通知の方法は「書面」または「電磁的方法」(電子メール等)によるものと定められています。
従来は書面が主流でしたが近年の事情を鑑み、メールによる方法も認められるようになりました。
電子メールによる通知が認められるようになりました。
ただしその場合は消費者の承諾が必要です。

●違反に対する罰則

前述した義務を行なわず、通知を怠った違反者は、100万円以下の罰金が課せられることになっています。


◆通信販売と電子商取引

電子商取引とは、インターネット上のホームページなどに商品等の広告や宣伝を掲載し、それを見た消費者が電子データの形で契約を申込むことで成立する取引のことです。

平たく言うと、ネットワークを通じて買い物をするインターネットショッピングのことです。

事業者はホームページを作って消費者が閲覧しやすいようにしておけばよく、従来のようにテレビや新聞、雑誌などに広告を出すよりもはるかに安く上がります。

また、情報を検索して閲覧するためにもともと興味を持った消費者が見る可能性が高いので、費用対効果の面でもすぐれています。
そのため、この電子商取引は近年急速に普及しています。

買い手 メリット
・商品の比較がしやすい
多くの店舗の商品を比較できるので、より自分に合ったものを購入できる。
・安く購入できる
インターネット上では、価格競争が激しいため商品価格が低下しやすく、安価なことが多いです。また、商品を直接購入することができるので、流通にかかるコストを抑えることができる。
・実際に店舗に赴く必要がない
自宅や職場など、場所を選ばず商品の購入ができる。
また近くに欲しいものが売っていないような遠隔地でも、ECサイトで簡単に手に入れられる。
・好きな時間に購入できる
インターネットは24時間稼働しているので、好きな時に購入の手続きができる。

デメリット
・画像と字面でしか判断できない
商品を実際に手にとってみることができない。
思っていたものと違うということから金銭トラブルに発展する可能性もある。
・なり済まし
相手との対面性がないので、パスワードやIDが盗まれた場合、なりすまし詐欺の被害を受けるリスクがある。
・パソコンの操作ミス
クリックミスによって、契約の申し込みを行ってしまう可能性がある。
※錯誤を理由に無効を主張できます。(電子消費者契約等に関する民法特例法)
・フィッシング詐欺の可能性
販売サイトを装って、個人データやクレジットカードをだまし取る目的の詐欺がある。

売り手 メリット
・実店舗が不要
インターネット上に店舗を設けるので、建物の維持費や人件費といった経費がかかりません。拠点が地方でも、国内から海外まで売り場を広げることができる。
・開業しやすい
初期費用が少ない人でも、開業することができる。
・アクセス解析で問題を分析しやすい
商品一覧はよく見られているけど、個別商品まで見られていないなど、そのサイトの問題点が判る。
デメリット
・手数料を取られる
初期費用、固定費用、従量課金、決済手数料などがかかる。ECサイトを自社で構築した場合、手数料はかかりませんが、その他経費はかかる。
・価格競争
価格競争になりやすい。消費者にとってはメリットですが、売り手は利幅をあまり見込めない。
本来この電子商取引は通信販売の一部であり、その扱いや係る規制は他の通信販売と変わりませんが、ここ近年の取引数の急激な増加やその独自の取引形態から生ずるトラブルに対処するため、新たに別個の規制などがガイドラインという形で制定されました。

◆インターネット・オークションにおける「販売業者」に係るガイドライン

インターネット・オークションは、これまで消費者でしかなかった個人が容易に販売業者になることができるというシステムです。
その場合、個人であっても販売業者に該当する場合には、特定商取引法の規制対象となります。

つまり、営利の意思を持って反復継続して販売を行う場合は、法人・個人を問わず事業者に該当し、特定商取引法の規制対象となるということです。
「営利の意思」及び「反復継続」は、インターネット・オークション以外の場における取引も含めて総合的に考慮して判断されます。

すなわち、例えば、インターネット・オークション以外の場における事業者が、その事業で取扱う商品をオークションに出品する場合は、その数量や金額等にかかわらず原則として販売業者に当たります。

したがって、例えば、個人事業者が現実の場における事業で取り扱う商品を、単発的にインターネット・オークションを利用して出品する場合は、販売業者による取引に該当します。

◆インターネット通販における「意に反して契約の申込みをさせようとする行為」に係るガイドライン

インターネット取引では画面上の申し込みボタンをクリックすることで、契約が成立するようになっていることがほとんどです。
その場合、消費者が画面の説明をよく読まずに誤認したり、誤認していなくてもウッカリしてボタンを押してしまうと、その時点で、もう取り消しはできなくなってしまいます。

しかし、急増するインターネット取引に伴い、パソコンの誤操作によるトラブルも増え続けており、これに対しても新たな取り決め(電子消費者契約法)がつくられました。

①インターネット通販において、あるボタンをクリックすれば、それが有料の申込みとなることを、消費者が容易に認識できるように表示していなければなりません。

申込みの最終段階において、「注文内容の確認」といった表題の画面(いわゆる最終確認画面)が必ず表示され、その画面上で「この内容で注文する」といった最終確認画面があるか、最終確認画面がなくとも最終的な申し込みボタンの前にそれに準じた表現で消費者に確認をとっていることが必要です。

②インターネット通販において、申込みをする際に、消費者が申込み内容を容易に確認し、かつ、訂正できるように措置していなければならない。

A. 申込みの最終段階の画面上において、申込み内容が表示されず、これを確認するための手段(「注文内容を確認」などのボタンの設定や、「ブラウザの戻るボタンで前に戻ることができる」旨の説明)も提供されている。

B. 申込みの最終段階の画面上において、訂正するための手段(「変更」などのボタンの設定や、「ブラウザの戻るボタンで前に戻ることができる」旨の説明)が提供されている。

C. 申込みの内容として、あらかじめ(申込者が自分で変更しない限りは)、同一商品を複数申し込むように設定してあるなど、一般的には想定されない設定がなされており、よほど注意していない限り、申込み内容を認識しないままに申し込んでしまうような設定になっていないこと。


また、更に電子契約が成立する時点として「到達主義」を採用することを決めてあります。


●発信主義と到達主義

電子契約では、事業者側の申込み承諾の通知が消費者に届いた時点で契約成立となります。
注文・申込みがあった場合、申込み承諾の連絡をし、かつそれが申込み者に届かないと(法律上では)契約成立となりませんので、必ず承諾の連絡を行う必要があります。

発信主義と到達主義

民法では、隔地者間の契約の成立時期は、郵便という時間のかかる手段を前提としているため、契約の早期成立を図る観点から、契約の承諾をする者が承諾の通知を発した時点としています(発信主義 第526条第1項)。
そのため、例えばネット通販で消費者が商品を注文した後、通信障害などで事業者から承諾の電子メールが届かなかった場合、従来はいつ契約が成立したのか消費者の側にはわからず、メールの不着から生じるリスクを負わねばなりませんでした。
しかし、電子消費者契約法では契約成立時期を通知が到達した時点としました(到達主義)。
到達主義を採用すれば、メールが届くまでは契約が成立しないことが明らかなので、メールが届かないことから生じるリスクは事業者が負うことになります。
ただし、事業者がメールで申込みを受けても、最終的な承諾の意思表示を郵便で行う場合には発信主義となります。


◆法改正による追加事項

社会情勢の変化に伴う消費者トラブルの様相の変化を受けて、通信販売に関する規制を取り決めた法もその都度改正されてきました。

◆返品制度の追加

通信販売には、一定の期間内であれば消費者が事業者との間で申込みや締結した契約を無条件に撤回できるクーリング・オフ規定がありませんでしたが、返品をめぐるトラブルを防止するため、平成20年の改正法によって、特定商取引法で定めている要件を満たした返品特約として認められない場合には、消費者に法定の返品権が認められました。

法定返品権が認められる要件は
①商品または指定権利の販売条件について広告をした販売業者との売買契約の申込みまたは締結である
②売買契約にかかる商品の引渡しまたは指定権利の移転を受けた日から起算して8日を経過するまでの間である
③申込みの撤回又は契約解除の意思表示をする
④広告等に返品の特約の表示が消費者に容易に認識できるようになされていない

返品特約は、商品等に瑕疵がなく販売業者に契約違反がない状態において
(ア)返品を認めるか否か
(イ)返品が可能である期間等の条件
(ウ)返品に要する送料の負担の有無等
について表示されていなければなりません。

さらに、消費者にとって見やすい箇所において明瞭に判読できるように表示する方法など容易に認識することができるように表示することが必要です。
消費者庁及び経済産業省では、広告媒体ごとに具体的な表示方法の例をガイドラインで示しています(『通信販売における返品特約の表示についてのガイドライン』http://www.no-trouble.go.jp/pdf/20120401ra04.pdf)。

さらに、インターネット通信販売では、いわゆる最終申込み画面においても返品特約が表示されている必要があります。
これらの返品特約の表示が満たされていない場合には、法定返品権を排除する返品特約とは認められず、法定返品権の規定によって返品が認められることになります。

◆迷惑メールに対する規制の変更

販売業者等は、消費者の請求に基づかずに、または承諾を得ないで通信販売の電子メール広告をしてはならないとして、オプトイン規制をしています。

平成20年の特定商取引法改正前は、広告であることの表示義務を課した上で広告メールの受信拒否の意思を通知した者に対する送信を禁止するというオプトアウト規制を行っていましたが、オプトアウト規制では実効性に欠け、迷惑メールの被害拡大をも招きかねないことが指摘されるようになり、迷惑メールの通信インフラへの過負荷についても看過できなくなったことから特定電子メール法とともにオプトイン規制に転換したものです。

オプトイン規制により、電子メール広告を送信するにあたって予め消費者の「請求や承諾」を得ることが義務付けられました。

さらに、販売業者等が電子メールの送信業務を受託する業者を利用する場合も多いため、販売業者等から委託を受けて電子メールによる広告を送信する広告受託事業者についても規制を設けました。

●オプトアウト・オプトイン

まず、オプトアウトという仕組みは、メールの送信は原則自由で、受け取りたくない受信者は個別に受信拒否通知をする形になります。
つまり、受信者が、メールが届いたあとに“opt out”の手続きをすることでメールの受信を拒否するわけです。

オプトアウト


それに対して「オプトイン」は、受信者となる人が事前に送信者に対してメール送信に対する同意を与える、もしくは依頼するという形になります。
つまり、受信者が参加の意思表示を“opt in”の手続きによって行うことによって初めて、送信者はメールを送ることができるわけです。

オプトイン


この二つの仕組みで一番重要なのは、「主導権がどちらにあるか」ということです。
オプトアウト方式ではメールの送信者側に主導権があり、オプトインではメールの受信者側に主導権があるということです。

オプトアウト方式では、受信者が出来ることは受信拒否手続きなどに限定されていましたが、オプトイン方式では受信者がメールを受信するにあたり事前にその趣旨や内容を吟味できることになります。

極端な話、受信者が「メールを送っていいですよ」と言わなければメールが届くことはありません。
また、身に覚えのないメールに対して苦情が言いやすくなっています。
日本国内では、平成20年12月1日に施行されたた迷惑メール対策関連の改正法により、広告・宣伝メールなどの送信が、それまでのオプトアウト方式からオプトイン方式に変更されました。



3.電話勧誘販売

◆電話勧誘販売とは・・・

電話勧誘販売は、業者が消費者の自宅や勤務先に電話をかけて商品等の購入や、役務提供の契約の締結を勧誘し、消費者が電話・メール・FAX・郵便等の手段で契約の申し込みをするものです。

例えば以下のようなものがそうです

電話勧誘販売での代表的なセールストーク
・お子さんの受験には当社の教材がお勧めだ。サポートがあるので必ず合格する。?
・当社の教材で勉強し資格試験に合格すれば、在宅でパソコン入力の仕事ができる。?
・カニは好きか。今なら2万5000円を2万円にする。?
・健康食品を試してしてみないか。
・あなたが持っている山林を高額で売るために草刈りの契約をした方がよい。

電話勧誘販売は基本的に相手のセールスマンと会わないで交渉するので、相手がどんな人なのかよくわかりません。
また扱っている商品がどのような物なのかもわかりずらいので、十分に注意が必要です。

この手の電話勧誘販売は悪質商法である資格商法内職(在宅ワーク)商法に使われることが多く以前から被害が多発していました。


資格商法・・・公的機関との関わりがあるような名称を名乗ったり、誰でも簡単に資格を取得できるなどの虚偽説明をしてきて高額な教材などを売りつけてきます。

内職(在宅ワーク)商法・・・「簡単に高収入が得られる」、「誰でも簡単に出来る」などと謳い、仕事を提供する代わりに登録料や教材等の金銭負担をさせ、実際に契約をしても勧誘時に言っていたこととは異なる。


業者からの勧誘の電話の中で申込みを行う取引だけでなく、いったん電話を切った後に消費者の側から申込みを行った場合でも、電話勧誘によって消費者の購入意思の決定が行われた場合には、「電話勧誘販売」に該当します。

さらに、事業者が欺瞞的な方法で消費者に電話をかけさせて勧誘した場合も該当します。
つまり、事業者側から直接電話をして勧誘するのではなく、消費者の側から電話を掛けさせるように仕向け、その電話の中で契約を締結する場合です。
電話をかけさせる方法として、政令では以下のものを規定しています。

①当該契約の締結について勧誘するためのものであることを告げずに電話をかけることを要請すること
 例えば「このたびこちらのエリアを担当させていただくことになり、あいさつに伺いました。お伝えしたい重要事項がございますので、ご連絡いただけると幸いです。」などといったチラシをポストに入れ消費者からの電話を誘い込む

②他の者に比して著しく有利な条件で契約を締結できることを告げ、電話をかけることを要請すること
 例えば「明日から3日間、電話でお申し込みのお客様に限って特別価格にて提供させていただきます。」などとうたった広告によって消費者を誘い込む

電話を用いて行われる勧誘販売は大体以下の5つに分類されます
 1. 電話で勧誘され、契約に至る
 2. 電話で勧誘され、資料送付があって、契約に至る
 3. ダイレクトメールが送られた後、電話勧誘があり、契約に至る
 4. 電話で誘引があり、来訪して契約に至る
 5. 電話で呼び出され、勧誘されて、契約に至る

このうち4と5については、事の発端は事業者からの電話であっても、契約に至る過程の内容から訪問販売として扱われます。
電話勧誘販売として規制の対象になるのは1~3の3つです。

それではこの電話勧誘販売にはどのような問題点があるのでしょうか。


◆電話勧誘販売の特質と問題点

電話勧誘販売には以下のような特質と問題点があります。

不意打ち性 ・事業者が、突然かつ一方的に勧誘行為を開始する点で、不意打ち性が強い
匿名性 ・消費者側は、相手方の素性も目的も確認できないまま、会話を余儀なくされる
密室性 ・第三者に聞かれない一種の密室状態で、口頭での勧誘を受けること
即断の強要 ・商品の現物や資料をゆっくり見る余裕もないまま、応答を求められること
非書面性
不確実性
・電話での会話による契約締結が問題となるため、契約内容や契約条件を正確に認識したり、確認したりすることが難しく、また契約の成立自体が曖昧なことが多い
勧誘の執拗性
拒絶の困難性
・場所や時間を問わず何度も電話による勧誘をしてくるため消費者は断りにくい状況に追い込まれる
簡易性 ・消費者のもとを訪れる必要がなく安く済むので、消費者は攻撃的で執拗な勧誘にさらされやすい
以上のような観点から、電話勧誘販売は消費者の契約意思の形成やそのための価値判断を歪め消費者の自己決定権を侵害する可能性が高いため、特商法では電話勧誘販売に対しても、独自の規制を設けています。


◆電話勧誘販売に対する規制

電話勧誘販売においては以下の項目が規制事項になっています。
 ①氏名等の明示義務
 ②勧誘継続、再勧誘の禁止
 ③指定事項を記載した書面の交付義務
 ④前払式電話勧誘販売における承諾等の通知義務
 ⑤その他禁止事項

①氏名等の明示義務
 販売業者または役務提供事業者が電話勧誘販売をしようとするときは、その相手方に対し
 1. 販売業者、役務提供事業者の氏名または名称
 2. その勧誘を行う者の氏名ならびに商品、権利、役務の種類
 3. その電話が売買契約または役務提供契約の締結についての勧誘をするためのものであること
をまず最初に伝えなければなりません。

つまり、相手が電話に出たら、最初に会社名と担当者の氏名を名乗り、「本日は○○という商品をご紹介させていただこうと思いましてお電話いたしました。」というように勧誘が目的の電話であることを告げなければなりません。

②勧誘継続、再勧誘の禁止
 電話勧誘販売において、相手方が契約を締結しないという意思を表示した場合、事業者はその契約について勧誘を続けたり、再度勧誘の電話をしたりしてはいけません。
「契約を締結しないという意思の表示」とは「契約しません」というように言葉の上ではっきり表示せれていなくても、「必要ありません」「買うつもりはありません」というように契約締結の意思がないことをはっきりうかがわせる表現でも構いません。
また、「もう電話しないでください」とか「お宅とは付き合うつもりはない」というような黙示的に契約の意思がないことがわかるような場合もあてはまります。

③指定事項を記載した書面の交付義務
 特定商取引法は、電話勧誘販売において事業者が契約の申込みを受けたとき、あるいは契約を締結したときには、以下の事項を記載した書面を消費者に遅滞なく渡さなければならないことを定めています。

1. 商品(権利、役務)の種類
2. 販売価格(役務の対価)
3. 代金(対価)の支払い時期、方法
4. 商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)
5. 契約の申込みの撤回(契約の解除)に関する事項(クーリング・オフができない部分的適用除外がある場合はその旨含む。)
6. 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
7. 契約の締結を担当した者の氏名
8. 契約の締結の年月日
9. 商品名、商品の商標または製造業者名
10. 商品の型式
11. 商品の数量
12. 商品に隠れた瑕疵(一見しただけではわからない不具合)があった場合、販売業者の責任についての定めがあるときには、その内容
13. 契約の解除に関する定めがあるときには、その内容
14. そのほか特約があるときには、その内容

これにより、契約内容の曖昧さや不確実さを排除でき、また消費者の認識や理解の不正確性も減り、軽率な契約締結も少なくなります。

なお逆に、書面に記載してはいけない事項として以下のものが挙げられています。

 1. 販売業者が商品の瑕疵担保責任を負わない旨
 2. 購入者から契約の解除ができない旨
 3. 事業者責任の契約解除で、購入者が民法の定めよりも不利になる規定
 4. その他法令に違反する特約

④前払式電話勧誘販売における承諾等の通知義務
 電話勧誘販売において前払い式の取引を行う場合、契約の成立が不明確になりやすく、通信販売と同様にあるいはそれ以上に消費者は不安定な状態におかれます。
そこで通信販売と同じように電話勧誘販売においても承諾等の通知義務が規定されています。

事業者は、代金を受け取り、その後商品の引渡しを遅滞なく行うことができないときには、その申込みの諾否等について、以下の事項を記載した書面を渡さなければなりません。
1. 申込みの承諾の有無(承諾しないときには、受け取ったお金をすぐに返すことと、その方法を明らかにしなければならない)
2. 代金(対価)を受け取る前に申込みの承諾の有無を通知しているときには、その旨
3. 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
4. 受領した金銭の額(それ以前にも金銭を受け取っているときには、その合計額)
5. 当該金銭を受け取った年月日
6. 申込みを受けた商品名とその数量(権利、役務の種類)
7. 承諾するときには、商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)(期間または期限を明らかにすることにより行わなければならない)

⑤その他禁止事項
 電話勧誘販売における、以下のような不当な行為を禁止しています。

不実告知の禁止 売買契約等の締結について勧誘を行う際、または締結後、申込みの撤回(契約の解除)を妨げるために、事実と違うことを告げること
故意による事実の不告知 売買契約等の締結について勧誘を行う際、故意に事実を告げないこと
威迫・困惑行為の禁止 売買契約を締結させ、または契約の申込みの撤回(契約の解除)を妨げるために、相手を威迫して困惑させること


◆電話勧誘販売におけるクーリング・オフ

電話勧誘販売の際、消費者が契約を申込んだり、契約をしたりした場合でも、消費者は事業者に対して、書面により申込みの撤回や契約の解除(クーリング・オフ)をすることができます。

その条件として、
 ①電話勧誘販売であること
 ②権利の購入契約の場合には政令で定められた特定権利であること
 ③法定の書面を交付してから8日以内であること
 ④例外や適用除外事項に該当しないこと

電話勧誘販売におけるクーリング・オフ制度の内容は、その適用対象・期間・適用除外事項すべてにおいて訪問販売とほぼ変わりません。
適用除外事項の「自分から業者を家に呼び寄せて契約した場合」が「自分から業者に電話して契約した場合」に変わるだけです。

損害賠償についても同じでクーリング・オフが成立すると
 ①購入者は、損害賠償や違約金を請求されない
 ②商品の引渡しや権利の移転があった後の場合は、その引き取りや返還の費用は事業者の負担となる
 ③購入者は、既に施設を利用したり役務の提供を受けていた場合でも、その使用料金などの対価を請求されない
 ④役務提供事業者は、頭金などその契約に関してすでに受け取っている金銭があれば、これを返還しなければならない
 ⑤契約履行に伴って土地や工作物の現状が変更されている場合、購入者は無償で原状回復を請求できる
という効果が生じます。


4.連鎖販売取引

◆連鎖販売取引とは

 連鎖販売取引とは、商品を販売しながら会員を勧誘するとリベートが得られるとして、消費者を販売員にして、会員を増やしながら商品を販売していく商法です。いわゆる「マルチ商法」のことです。

特商法に定める「連鎖販売取引」は、ねずみ講の変種であるこのマルチ商法の行為規制を強化するために作られた概念です。

このシステムには多様な形態がありますが、その共通点は
①この組織に加入する人を契約上は独立した商人として扱う。
②この組織の加入者をレベル別に区分し、上級レベルほど利益を大きくする。
③加入者の利益は、商品販売利益のほか新規加入者を増やすことでも利益が図れる。
最大の特徴は③で、商品販売による中間マージンより会員勧誘利益を大きくしていることです。

分かりやすく具体例を挙げて説明すると、
例えばある化粧品の販売組織があるとします。
その会員になるとその組織から商品である化粧品を仕入れて、販売員としてその化粧品の販売が可能になりますが、販売にあたって購入者を勧誘して新たに会員にすると商品仕入れ代金の一定額が返還されるシステムがとられています。
そこで販売員は商品を売る以上に新たな会員獲得を目指して熱心に勧誘行為を行うようになり、組織は拡大していくことになります。

●マルチ商法とねずみ講の違い

マルチ商法」は、ある加盟者が次々に他の者を組織に加盟させることにより組織が連鎖的に拡大するシステムで、鼠算式に後順位加盟者が増加する性質を有することからネズミ講とも言われていますが、「ねずみ講=マルチ商法」ではありません。

ねずみ講とは、金銭を支払って加入した者が、他に2人以上の加入者を紹介・斡旋し、その結果、出費した額を超える金銭を後で受け取るという商品販売を目的としない金品配当組織のことです。

その特徴は、後順位者の連鎖が無限に続くことを前提に金品の利殖配当を行うものです。

マルチ商法もねずみ講も、基本的には組織内でランクアップをすることにより利益が得られるピラミッド型のシステムであるという点では共通していますが、ねずみ講は金品配当のみを目的としているものであるのに対し、マルチ商法は単なる金品配当を目的とするのではなく、商品販売等の促進に特徴があります。

このねずみ講のシステムでは後順位の参加者が鼠算式に増加することによってのみ、自分の支払った金額を回収し配当を受けることができるようになっています。
しかし、ピラミッド式に拡大する組織でも、最初の1人を1代目として1人が単純に1日に2人を勧誘する前提で計算すれば、28日目には1億3400万人に達し、この時点で日本の総人口を上回ります。

このことから、参加者には限度があり、このシステムはいずれ破綻する性質のものであることがわかります。
こうして、多数の被害者が生み出される反面、本部は全く損害を被ることなく莫大な利益をあげるこのねずみ講は大きな社会問題となり、1978年に成立した「無限連鎖講の防止に関する法律」によって開催、勧誘、参加行為等が全面禁止になりました。
つまり、ねずみ講は犯罪です。

マルチ商法はピラミッド型の単純な構造のねずみ講に比べ、様々なバリエーションがあり、単なる金品配当を目的とするのではなく、商品販売等の促進に特徴があります。そのため、ねずみ講と違い全面禁止にはなってはいません。

ただ、商品販売よりも、他の消費者を勧誘した方の利益が大きいため、本来の目的が薄れ、高利益を得ようと半ば強引な勧誘行為を繰返す等の問題が多く、組織が連鎖的に拡大するシステムであることから基本的にはその被害も拡大していくという傾向は免れません。

そのため、特商法では「連鎖販売取引」という広い概念でマルチ商法をくくり実質的には活動できないように厳しい規制を設けてあります。



◆連鎖販売取引における規制

特定商取引法は、「連鎖販売業」を次のように規定しています。
 1. 物品の販売(または役務の提供など)の事業であって
 2. 再販売、受託販売もしくは販売の斡旋(または役務の提供もしくはその斡旋)をする者を
 3. 特定利益が得られると誘引し
 4. 特定負担を伴う取引(取引条件の変更を含む。)をするもの

1. 物品の販売(または役務の提供など)の事業

権利の販売や役務の提供も規制の対象となり、物品の販売だけでなくレンタルやリースも含まれます。

2. 再販売、受託販売もしくは販売の斡旋(または役務の提供もしくはその斡旋)をする者

全ての商行為が規制の対象となるのではなく、次の取引の類型に限られます

再販売 販売の相手方が商品を買い受けて販売すること
受託販売 販売の委託を受けて商品を販売すること
受託販売の斡旋 商品販売そのものをするのではなく、販売の斡旋をすること
同種役務の提供 その役務と同一種類の役務を提供すること
同種役務の提供の斡旋 同一種類の役務の提供の斡旋をすること

3. 特定利益

特商法にいう特定利益とは、新たにシステム(組織)に加入させることによって勧誘者にもたらされる利益です。従って、商品自体を売買することで得られる小売差益とは性質が異なります。

・1人紹介するごとに、紹介手数料として金○○円があなたに支給されます!
・あなたが勧誘して組織に加入する人の提供する取引料の○%があなたのものになります。
・あなたが勧誘して組織に加入する人が提供を受けているサービス料の○%があなたのものになります。

4. 特定負担を伴う取引(取引条件の変更を含む)

特定負担とは、組織に入会するために支払う費用や販売用の商品を購入する際に支払う金銭負担を意味します。取引をする相手方に対して支払うもので、入会金、登録料、保証金、研修費用など、その名目は問いません。

かつてはその特定負担の額は「2万円」以上とされていましたが、脱法的な取引が横行したため、この金額は撤廃されました。

さて、それでは実際どのような規制が敷かれているのでしょうか。


連鎖販売取引に対する規制

①氏名等の明示義務
 統括者連鎖販売業を実質的に掌握している者)、勧誘者(統括者が勧誘を行わせる者)または一般連鎖販売業者(統括者または勧誘者以外の連鎖販売業を行う者)は、連鎖販売取引を行うときには、勧誘に先立って、消費者に対して、次のような事項を告げなければなりません。

 1. 統括者、勧誘者または一般連鎖販売業者の氏名(名称)(勧誘者、一般連鎖販売業者にあっては統括者の氏名(名称)を含む)
 2. 特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘をする目的である旨
 3. その勧誘にかかわる商品または役務の種類

②不実の告知・事実の不告知の禁止
 勧誘の際、または契約の締結後、その解除を妨げるために、商品の品質・性能など、特定利益、特定負担、契約解除の条件、そのほかの重要事項について事実を告げないこと、あるいは事実と違うことを告げること。

③威迫・困惑行為の禁止
 勧誘の際、または契約の締結後、その解除を妨げるために、相手方を威迫して困惑させること。

④公衆の出入りしない場所での勧誘の禁止
 勧誘目的を告げない誘引方法(いわゆるキャッチセールスやアポイントメントセールスと同様の方法)によって誘った消費者に対して、公衆の出入りする場所以外の場所で、特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘を行うこと。

⑤広告の表示義務
 統括者、勧誘者、一般連鎖販売業者は、その統括者の統括する一連の連鎖販売業にかかわる連鎖販売取引について広告する場合には、その連鎖販売に関して、以下のような事項を表示することが義務づけられています。
 1. 商品(役務)の種類
 2. 取引に伴う特定負担に関する事項
 3. 特定利益について広告をするときにはその計算方法
 4. 統括者などの氏名(名称)、住所、電話番号
 5. 統括者などが法人で、電子情報処理組織を使用する方法によって広告をする場合には、当該統括者などの代表者または連鎖販売業に関する業務の責任者の氏名
 6. 商品名
 7. 電子メールによる商業広告を送る場合には、統括者などの電子メールアドレス

⑥虚偽広告・誇大広告の禁止
 特定商取引法は、誇大広告や著しく事実と相違する内容の広告による消費者トラブルを未然に防止するため、表示事項などについて、「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁止しています。

⑦受信拒否者への再送信の禁止
 消費者があらかじめ承諾しない限り、統括者、勧誘者または一般連鎖販売業者は連鎖販売取引電子メール広告を送信することを、原則禁止しています。(オプトイン規制)

⑧書面交付義務
 特定商取引法は、連鎖販売業を行う者が連鎖販売取引について契約する場合、それぞれ以下の書面を消費者に渡さなければならないと定めています。
 A.契約の締結前には、当該連鎖販売業の概要を記載した書面(概要書面) を渡さなくてはなりません。「概要書面」には、以下の事項を記載することが定められています。
 1. 統括者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
 2. 連鎖販売業を行う者が統括者でない場合には、当該連鎖販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
 3. 商品の種類、性能、品質に関する重要な事項(権利、役務の種類およびこれらの内容に関する重要な事項)
 4. 商品名
 5. 商品の販売価格、引渡時期および方法そのほかの販売条件に関する重要な事項(権利の販売条件、役務の提供条件に関する重要な事項)
 6. 特定利益に関する事項
 7. 特定負担の内容
 8. 契約の解除の条件そのほかの契約に関する重要な事項
 9. 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
 10. 法第34条に規定する禁止行為に関する事項

B.契約の締結後には、遅滞なく、契約内容について明らかにした書面(契約書面)を渡さなくてはなりません。
「契約書面」には、以下の事項を記載することが定められています。
 1. 商品の種類、性能、品質に関する事項(権利、役務の種類およびこれらの内容に関する事項)
 2. 商品の再販売、受託販売、販売の斡旋(同種役務の提供、役務の提供の斡旋)についての条件に関する事項
 3. 特定負担に関する事項
 4. 連鎖販売契約の解除に関する事項
 5. 統括者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
 6. 連鎖販売業を行う者が統括者でない場合には、当該連鎖販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
 7. 契約年月日
 8. 商標、商号そのほか特定の表示に関する事項
 9. 特定利益に関する事項
 10. 特定負担以外の義務についての定めがあるときには、その内容
 11. 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
 12. 法第34条に規定する禁止行為に関する事項

⑨債務の履行拒否・不当遅延の禁止
 鎖販売契約に基づく債務又はその解除によって生ずる債務の全部又は一部の履行を拒否し、又は不当に遅延させることは、連鎖販売取引の公正及び連鎖販売取引の相手方の利益が害されるおそれがあると認められ、禁止されている

⑩断定的判断を提供した勧誘の禁止
 利益を生じることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供して勧誘すること

⑪迷惑を覚えさせる勧誘の禁止

⑫迷惑を覚えさせる解除妨害の禁止
勧誘の際、または契約の締結後、その解除を妨げるために、相手方を威迫して困惑させること

⑬不実告知、事実不告知の教唆

⑭威迫・困惑の教唆

⑮書面交付義務違反の教唆
 統括者及びその他勧誘者に先の禁止されている事項をするように教唆すること

⑯判断力不十分に乗じた契約の禁止
 未成年者その他の者の判断力の不足に乗じ、連鎖販売取引の契約をさせること

⑰適合性の原則違反
 契約を締結するに際し、当該契約に係る書面に年齢、職業その他の事項について虚偽の記載をさせること

⑱契約書類に虚偽を記載させる行為の禁止
 契約の相手方に当該契約に基づく債務を履行させるため、契約の相手方の年収、預貯金又は借入れの状況その他の支払能力に関する事項について虚偽の申告をさせること


◆連鎖販売取引におけるクーリング・オフ

 さてそれでは、悪質な連鎖販売取引に引っかかってしまった場合には、どうすればよいでしょうか。

簡単で確実に儲かるなどという巧妙なキャッチフレーズに惑わされ、複雑な契約内容をよく理解しないまま契約を結んでしまい被害に遭うという事態が多発しているのが現状です。

そこで連鎖販売取引でも、連鎖販売加入者(消費者)が理由の如何を問わず書面によって契約の解除を行うことができる、クーリング・オフ制度が導入されています。

連鎖販売取引のクーリング・オフでは訪問販売などの場合と違いその期間が20日と長めに設定されています。
これは、その契約内容やシステムが複雑であり、勧誘によって生じた誤信などが短期間では解消しないことによるものです。

なお、このクーリング・オフ制度が適用されるのは、無店舗個人に限ってのことです。

●起算日
クーリング・オフ期間の起算日は以下の通りです。

①契約書を受け取った日
 ただし契約書に不備があった場合には、正しい契約書が交付された時からの起算になります。

②商品の引渡日
 連鎖販売取引が商品の再販売である場合には、契約書面の交付より商品の受領が遅い場合に限り、商品の引渡しの日が起算日となります。

これは、契約書を交わした後、大量の商品の在庫を抱え込まされ、解約しようにも期間の20日を過ぎているというような問題が当初多発したためです。

また、クーリング・オフの妨害行為が行われている場合、解除妨害解消書面を受領した日から20日間となります。

つまり、統括者・勧誘者又は一般連鎖販売業者の違法な妨害を受けた加入者が、誤認・困惑によりクーリング・オフしなかった場合には、当該統括者・勧誘者又は一般連鎖販売業者から契約書面の交付又は商品の引渡しを受けた日から起算して20日を経過してもクーリング・オフができるのです。


●クーリング・オフの効果

・連鎖販売業を行う者は、その連鎖販売契約の解除に伴う損害賠償や違約金の支払を請求できない。
・その連鎖販売契約に係る商品の引渡しがなされている場合は、その引渡しに要する費用は、その連鎖販売業を行う者の負担とする。

として当事者双方に原状回復義務を課しています。

連鎖販売業者は、受け取った商品代金・役務の対価・取引料の返還義務があり、加入者は受け取った商品がある場合は、その返還義務があります。


◆その他連鎖販売取引における契約者保護制度

●途中解約権

 連鎖販売取引に参加する者は、メリットばかり強調した勧誘に誘引されて契約することが多い。

そこで、実際に連鎖販売取引に参加してみて初めて最初の説明の内容と現実との違いに気が付き、これ以上続けていく自信を無くしたりすることがよくあります。

そこで、クーリング・オフの期間を経過しても、一定範囲内での途中解約を認める制度が導入されました。

連鎖販売契約を結んで組織に入会した消費者(無店舗個人)は、クーリング・オフ期間の経過後も、将来に向かって連鎖販売契約を解除できます。

そのようにして退会した消費者は、以下の条件をすべて満たせば、商品販売契約を解除することができます。
 1. 入会後1年を経過していないこと
 2. 引渡しを受けてから90日を経過してない商品であること
 3. 商品を再販売していないこと
 4. 商品を使用または消費していないこと(商品の販売を行ったものがその商品を使用または消費させた場合を除く)
 5. 自らの責任で商品を滅失または毀損していないこと
(ここで言う商品とは、その最小単位のことを意味する。)

この規定によって、退会はしたけれども大量の商品の支払いが負担となっている場合や、大量の商品を抱えているために退会ができずにいる消費者が保護されるようになりました。

また、損害賠償額の制限も設けられており、以下の額に法定利率(年6%)の遅延損害金を加えた額以上の請求はできないようになっています。

①商品が返還されたか、引渡前である場合には、商品の販売価格の10%に相当する額
②商品が返還されない場合には、商品の販売価格に相当する額


●取消権

連鎖販売業を行う者が、契約の締結について勧誘をする際、以下の行為をしたことにより、消費者がそれぞれ以下の誤認をし、それによって契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときには、その意思表示を取り消すことができる取 消権も認められています。
①事実と違うことを告げられた場合であって、その告げられた内容が事実であると誤認した場合
②故意に事実を告げられなかった場合であって、その事実が存在しないと誤認した場合


5.特定継続的役務提供契約

◆特定継続的役務提供契約とは

特定継続的役務提供契約とは
 役務提供事業者が、特定継続的役務をそれぞれの特定継続的役務ごとに政令で定める期間を超える期間にわたり提供することを約し、相手方がこれに応じて政令で定める金額を超える金銭を支払うことを約する契約を締結して行う特定継続的役務の提供あるいは、販売業者が行う、その役務提供を受ける権利の販売のことで、

1. 役務の提供を受ける者の身体の美化又は知識若しくは技能の向上その他のその者の心身又は身上に関する目的を実現させることをもつて誘引が行われるもの
2. 役務の性質上、前号に規定する目的が実現するかどうかが確実でないもの

のいずれにも該当するものです。

現在、次の7役務が特定継続的役務として指定されていて、期間・金額も以下のようになっています。

特定継続的役務 期間 金額
エステティック
人の皮膚を清潔にしもしくは美化し、体型を整え、または体重を減ずるための施術を行うこと(いわゆる美容医療に該当するものを除く)
1ヶ月を超えるもの いずれも5万円を超えるもの
美容医療
人の皮膚を清潔にし、若しくは美化し、体型を整え、体重を減じ、又は歯牙を漂白するための医学的処置、手術及びその他の治療を行うこと(美容を目的とするものであって、主務省令で定める方法によるものに限る)
語学教室
語学の教授(入学試験に備えるためまたは大学以外の学校における教育の補習のための学力の教授に該当するものを除く)
2ヶ月を超えるもの
家庭教師
学校(小学校および幼稚園を除く)の入学試験に備えるためまたは学校教育(大学および幼稚園を除く)の補習のための学力の教授(いわゆる学習塾以外の場所において提供されるものに限る)
学習塾
入学試験に備えるためまたは学校教育の補習のための学校(大学および幼稚園を除く)の児童、生徒または学生を対象とした学力の教授(役務提供事業者の事業所その他の役務提供事業者が当該役務提供のために用意する場所において提供されるものに限る)
パソコン教室
電子計算機またはワードプロセッサーの操作に関する知識または技術の教授
結婚相手紹介サービス
結婚を希望する者への異性の紹介

●特定継続的役務提供契約における被害の特徴と問題点

 特定継続的役務提供契約は通常の商品の販売とは趣が異なるため、そこで生ずる問題にも特徴があります。

ア)エステティックにおける美容施術や外国語会話教室における会話指導という無形の役務(サービス)の提供が目的の契約で、実際に受けてみなければ内容の判定が困難である

イ)美容施術や学習指導はその内容や質が役務提供者の個性によって大きく左右されることが多く、また受け手の個性によってもその意味合いや効果が 変わってくるため、契約の適合性の判断が難しい

ウ)トラブルを多発させている事業者は、過大な効果を期待させる誇大広告や勧誘を展開する例が多い

エ)役務提供の内容が長期多数回にわたる内容の契約であり、途中解約が制限されていたり著しく高い違約金を設定している場合がほとんどである

事業者の展開する素晴らしい宣伝に誘引されて、消費者は目的の実現を期待して長期多数回の契約を締結し、実際に役務を受けてみると事前の説明や期待と食い違うという不満が起きやすく、解約を希望しても特約で制限されていたり解約金が不当に高額で解約できないなどのトラブルがこの典型です。
そこで、ここでも禁止事項と様々な規制が定められています。


◆特定継続的役務提供契約における禁止行為と規制

誇大広告などの禁止

役務の内容などについて、「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁止しています。
例)
「芸能人の○○さん愛用」「○○大学の××教授推薦」などと勝手に著名人の名前を使っていかにも効用があるように勧める。

事実の不告知

契約の締結について勧誘を行う際、故意に事実を告げないこと。
例)
フリータイム制の英会話教室で、会員がキャパシティを大幅に超えており、満足に予約が取れない状況にあることを告げない。

不実の告知

契約の締結について勧誘を行う際、または締結後、その解除を妨げるために、事実と違うことを告げること。
例)
家庭教師が教える際に使わないにもかかわらず、「家庭教師をつけるためには教材の購入が絶対必要」といって教材を買わせる。

威迫・困惑

契約の締結について勧誘を行う際、または締結後、その解除を妨げるために、相手を威迫して困惑させること。
例)
クーリング・オフしたいと思って電話したところ、「残金を支払わないと現住所に住めなくしてやる。」などと、不安を煽るような言動でクーリング・オフの行使を思いとどまらせる。

●書面の交付

特定商取引法は、事業者が特定継続的役務提供(特定権利販売)について契約する場合には、それぞれ以下の書面を消費者に渡さなければならないと定めています。

A.契約の締結前には、当該契約の概要を記載した書面(概要書面)を渡さなくてはなりません。

「概要書面」には、以下の事項を記載することが定められています。
1. 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
2. 役務の内容
3. 購入が必要な商品がある場合にはその商品名、種類、数量
4. 役務の対価(権利の販売価格)そのほか支払わなければならない金銭の概算額
5. 上記の金銭の支払い時期、方法
6. 役務の提供期間
7. クーリング・オフに関する事項
8. 中途解約に関する事項
9. 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
10. 前受金の保全に関する事項
11. 特約があるときには、その内容

B.契約の締結後には、遅滞なく、契約内容について明らかにした書面(契約書面)を渡さなければなりません。

「契約書面」には、以下の事項を記載することが定められています。
1. 役務(権利)の内容、購入が必要な商品がある場合にはその商品名
2. 役務の対価(権利の販売価格)そのほか支払わなければならない金銭の額
3. 上記の金銭の支払い時期、方法
4. 役務の提供期間
5. クーリング・オフに関する事項
6. 中途解約に関する事項
7. 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
8. 契約の締結を担当した者の氏名
9. 契約の締結の年月日
10. 購入が必要な商品がある場合には、その種類、数量
11. 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
12. 前受金の保全措置の有無、その内容
13. 購入が必要な商品がある場合には、その商品を販売する業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
14. 特約があるときには、その内容

そのほか消費者に対する注意事項として、書面をよく読むべきことを赤枠の中に赤字で記載しなければなりません。
また、契約書面におけるクーリング・オフの事項についても赤枠の中に赤字で記載しなければなりません。
さらに、書面の字の大きさは8ポイント(官報の字の大きさ)以上であることが必要です。


◆クーリング・オフ

クーリング・オフは通常、訪問販売や電話勧誘販売など予期しないときに勧誘されて契約してしまった場合の救済措置で、自ら店に出向いて購入する店舗販売やカタログを見て自ら申し込みをする通信販売などの場合は適用されません。
しかし、特定継続的役務提供の対象の場合は、販売方法にかかわらずクーリング・オフができます。

その場合以下の3つの要件を満たしている必要があります。

①特定継続的役務として指定されているものであること
 当然のことながらクーリング・オフができるのは特商法で指定されている契約に限られます。
例えばハウスクリーニングサービスなどのように、「有償で継続的に提供される役務」であっても政令指定されていないもののクーリング・オフは認められません。

②契約書面を受け取った日から8日以内であること
 ただし、クーリング・オフ妨害がなされた時は、クーリング・オフ期間の進行は停止する。

③書面により解除の意思が示されていること
 訪問販売や電話勧誘販売の場合と同じです。

クーリング・オフを行った場合、消費者がすでに商品もしくは権利を受け取っている場合には、販売業者の負担によって、その商品を引き取ってもらうことおよび権利を返還することができます。

また、役務がすでに提供されている場合でも、消費者はその対価を支払う必要はありません。

また、消費者は、損害賠償や違約金を支払う必要はなく、すでに頭金など対価を支払っている場合には、すみやかにその金額を返してもらうことができます。

また、消費者が本体の特定継続的役務提供など契約をクーリング・オフ(または中途解約)した場合には、その関連商品についてもクーリング・オフ(または中途解約)することができます。

具体的には、以下のものが関連商品として指定されています。

エステティック ・いわゆる健康食品
・化粧品、石けん(医薬品を除く)および浴用剤
・下着類・美顔器、脱毛器
美容医療 ・いわゆる健康食品
・化粧品
・マウスピース(歯牙の漂白のために用いられるものに限る。)及び歯牙の漂白剤
・医薬品及び医薬部外品であって、美容を目的とするもの
語学教室、家庭教師、学習塾 ・書籍(教材を含む)
・カセット・テープ、CD、CD-ROM、DVDなど
パソコン教室 ・電子計算機およびワードプロセッサー並びにこれらの部品および付属品
・書籍・カセット・テープ、CD、CD-ROM、DVDなど
結婚相手紹介サービス ・真珠並びに貴石および半貴石
・指輪その他の装身具


◆中途解約

消費者は、クーリング・オフ期間の経過後においても、将来に向かって特定継続的役務提供など契約(関連商品の販売契約を含む)を解除(中途解約)することができます。
つまり、事業者は、消費者が理由を述べることなく自由に解約をする中途解約にいつでも応じなければなりません。

継続的役務を提供する取引では、契約期間が長期間にわたることが多く、期間途中での転居、病気、失業など消費者側の様々な理由による諸事情の変化により、契約を継続することが困難になる場合がよくあります。
またある程度の役務提供を受けた後でないと、そのサービスの性質や効果を正確かつ客観的に評価することができないことから、クーリング・オフ期間を過ぎてから気が変わるということがしばしばあります。
そのため、この途中解約が認められています。


中途解約をする場合の損害賠償金の上限も定められており、この基準を超える請求は認められません

役務提供開始前の解約 役務提供開始後の解約
エステティック
2万円
提供された役務の価格と、2万円または契約残額の10%のいずれか低い額との合計
美容医療
2万円
提供された役務の価格と、5万円または契約残額の20%のいずれか低い額との合計
語学教室
1万5千円
提供された役務の価格と、5万円または契約残額の20%のいずれか低い額との合計
家庭教師
2万円
提供された役務の価格と、5万円または1ヶ月分の授業料相当額のいずれか低い額との合計
学習塾
1万1千円
提供された役務の価格と、2万円または1ヶ月分の授業料相当額のいずれか低い額との合計
パソコン教室
1万5千円
提供された役務の価格と、5万円または契約残額の20%のいずれか低い額との合計
結婚相手紹介サービス
3万円
提供された役務の価格と、2万円または契約残額の20%のいずれか低い額との合計


◆契約の申込みまたはその承諾の意思表示の取消し

 事業者が契約の締結について勧誘を行う際、以下の行為をしたことにより、消費者がそれぞれ以下の誤認をすることによって契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときには、その意思表示を取り消すことができます。

1. 事実と違うことを告げられた場合であって、その告げられた内容が事実であると誤認した場合
2. 故意に事実を告げられなかった場合であって、その事実が存在しないと誤認した場合

クーリング・オフ途中解約の他に取消しという制度も認められています。
これは事業者の側が初めから事実の不告知、不実の告知などの禁止行為を行なって、消費者を誤認させた場合です。
威迫・困惑についての取消は特商法では規定されていませんが、民法の適用により同じようにできることになっています。


6.業務提供誘引販売取引

◆業務提供誘引販売取引とは

特定商取引法は、「業務提供誘引販売取引」を次のように規定しています。
 1. 物品の販売または役務の提供(その斡旋を含む)の事業であって
 2. 業務提供利益が得られると相手方を誘引し
 3. その者と特定負担を伴う取引をするもの

分かりやすく言い換えると、
「仕事を提供するので収入が得られる」という口実で消費者を誘引し、仕事に必要であるとして、商品等を売って金銭負担を負わせる取引のことを業務提供誘引販売取引といいます。

例えば自宅でパソコンを使った作業をしたことの対価として高額の収入が得られるなどの謳い文句で消費者を誘い込み、それに必要なパソコンやその周辺機を購入させるといったものです。
いわゆる、内職商法、モニター商法といわれるものがこれに当たります。

業務提供利益とは業者が販売する広義の商品又は提供する役務を利用する業務により、顧客が得ることができる利益のことで、その際、顧客に負わせる何らかの金銭的負担のことを特定負担といいます。

●業務提供誘引販売取引の特徴と問題点

 内職商法では高収入が得られると思い商品を購入したものの、実際には当初の説明ほど多くの仕事の提供が無かったり、あっても次第に少なくなって最後には高額な商品の購入負担代だけが残るといったトラブルが多発しました。
モニター商法とは、布団や着物、浄水器などの商品を購入してモニター会員になって、商品を利用した感想やアンケートを提出すれば、定期的に高額のモニター料をもらえるというものですが、実際には商品は購入したもののモニター料の支払いは最初のうちだけで、次第に支払われなくなり結局購入した商品の支払いだけが残った、などという問題がしばしば発生しました。

ア)実態解明が困難
 業務提供の契約条件が曖昧なまま契約が締結されている場合が多く業務の提供が不履行となったときに、商品の購入代金の負担だけが残る。
 内職やモニター業務の紹介時に高額の収入を約束するような広告や勧誘が行われるが、実際は破綻することが明らかな欺瞞的なケースが多い。
 そもそも業務の提供が事業者の債務として約束されたものなのか、単なる収入見込みの説明なのか明確でない場合が多い。

イ)収入約束と商品購入との関連性が不明確
 契約締結の実態からすると収入約束と商品購入や役務提供を一体的な取引として勧誘し契約を締結しているにもかかわらず、書類上は別の契約として記載されている例が大半である。

ウ)特商法上の解釈
 そもそも消費者は営利を目的として契約を交わすため、単なる商品をめぐる消費者問題ではくくれないことが多い。

以上のようなことから業務提供誘引販売取引においても、様々な行政規制が設けられています。


◆業務提供誘引販売取引に対する規制

●広告規制

広告の表示

 特定商取引法は、業務提供誘引販売業を行う者が業務提供誘引販売取引について広告する場合には、次の事項を表示することを義務づけています。

1. 商品(役務)の種類
2. 取引に伴う特定負担に関する事項
3. 業務の提供条件
4. 業務提供誘引販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号
5. 業務提供誘引販売業を行う者が法人であって、電子情報処理組織を使用する方法によって広告をする場合には、当該業務提供誘引販売業を行う者の代表者または業務提供誘引販売業に関する業務の責任者の氏名
6. 商品名
7. 電子メールによる商業広告を送る場合には、業務提供誘引販売業を行う者の電子メールアドレス

誇大広告等の禁止

 消費者トラブルを未然に防止するため、広告における表示事項等について、「著しく事実に相違する表示」や「実際のものより著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁止しています。

●勧誘行為規制

 業務提供誘引販売取引業者が、契約の締結について勧誘を行う際、または締結後、取引の相手方に契約を解除させないようにするために、嘘をつくことや威迫して困惑させるなど不当な行為を禁止しています。
具体的には、以下のようなことが禁じられています

1. 事実不告知・不実告知
 勧誘の際、または契約の締結後、その解除を妨げるために、商品の品質・性能等、特定負担、契約解除の条件、業務提供利益、そのほかの重要事項について事実を告げず、あるいは事実と違うことを告げること

2. 威迫・困惑行為
 勧誘の際、または契約の締結後、その解除を妨げるために、相手方を威迫して困惑させること

3. 目的を告げない誘引
 勧誘目的を告げない誘引方法(いわゆるキャッチセールスやアポイントメントセールスと同様の方法)により誘引した消費者に対して、公衆の出入りする場所以外の場所で、業務提供誘引販売取引についての契約の締結について勧誘を行うこと

●書面交付義務

 事業者は消費者に、契約をする前に取引の概要を記した書面(概要書面)を渡し、契約に際しては、契約書面を交付することが義務付けられています。

A.契約の締結前には、当該業務提供誘引販売業の概要を記載した書面(概要書面)を渡さなくてはなりません。

「概要書面」には、以下の事項を記載することが定められています。

1. 業務提供誘引販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人にあっては代表者の氏名
2. 商品の種類、性能、品質に関する重要な事項(権利、役務の種類およびこれらの内容に関する重要な事項)
3. 商品名
4. 商品(提供される役務)を利用する業務の提供(あっせん)についての条件に関する重要な事項
5. 特定負担の内容
6. 契約の解除の条件そのほかの契約に関する重要な事項
7. 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項

B.契約の締結後には、遅滞なく、契約内容について明らかにした書面(契約書面)を渡さなくてはなりません。

「契約書面」には、以下の事項を記載することが定められています。

1. 商品の種類、性能、品質に関する事項(権利、役務の種類およびこれらの内容に関する事項)
2. 商品(提供される役務)を利用する業務の提供(あっせん)についての条件に関する重要な事項
3. 特定負担に関する事項
4. 業務提供誘引販売契約の解除に関する事項
5. 業務提供誘引販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人にあっては代表者の氏名
6. 契約の締結を担当した者の氏名
7. 契約年月日
8. 商品名、商品の商標または製造者名
9. 特定負担以外の義務についての定めがあるときには、その内容
10. 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項

そのほか消費者に対する注意事項として、書面をよく読むべきことを赤枠の中に赤字で記載しなければなりません。
また、契約書面におけるクーリング・オフの事項についても赤枠の中に赤字で記載しなければなりません。
さらに、書面の字の大きさは8ポイント(官報の字の大きさ)以上であることが必要です。


◆救済措置

●クーリング・オフ

 消費者は、事業者が提供したり斡旋したりする仕事により、収入(業務提供利益)が得られると見込んで物品の購入や口座の受講等の契約を結んでいますが、実際に、何をどのくらい、どのようにすれば期待通りの利益が得られるのかは、ある程度その仕事に従事してみなければ判断しづらいと考えられます。

また、実際には物品を買わせたり、講座を受講させることが目的で、はじめから仕事の提供や斡旋は殆ど口実にすぎない場合が多く、そうでなくとも実際にそれなりの収入を得るまでには相当の熟練や努力が必要であるにもかかわらず、勧誘時にあたかも簡単に高収入が得られるかのような説明しかなされていない場合が多いのが実情です。

以上のような事情を踏まえ、業務提供誘引販売取引では契約締結後であっても消費者が冷静に契約の適否や価値を、見極めて取引の継続の可否を決定できるように、連鎖販売取引と同様の20日間のクーリング・オフ期間が認められています。
また、他の取引と同じように事業者による威迫・困惑行為があった場合にはその期間の延長が認められています。

なお、この場合、業者は契約の解除に伴う損害賠償や違約金の支払いを請求できず、商品の引取り費用も業者の負担となります。
ただし、原状回復義務については、契約を解除する双方が負うことになります。業者は支払われた代金、取引料を返還するとともに、消費者は引渡しを受けた商品を業者に返還しなければなりません。

クーリング・オフ

●契約の申込みまたはその承諾の意思表示の取消し

 契約の締結について勧誘をする際、以下のような行為をしたことにより、消費者がそれぞれ以下のような誤認をしたことによって契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときには、その意思表示を取り消すことができます。
 1. 事実と違うことを告げられた場合であって、その告げられた内容が事実であると誤認した場合
 2. 故意に事実を告げられなかった場合であって、その事実が存在しないと誤認した場合

●損害賠償等の額の制限

クーリング・オフ期間の経過後、たとえば代金の支払い遅延等、消費者の債務不履行を理由として契約が解除された場合には、事業者から法外な損害賠償を請求されることがないように、特定商取引法は次のような制限をし、事業者はこれを超えて請求できないことになっています。

 1. 商品が返還された場合には、通常の使用料の額(販売価格から転売可能価格を引いた額が、通常の使用料の額を超えているときにはその額)
 2. 商品が返還されない場合には、販売価格に相当する額
 3. 役務を提供した後である場合には、提供した役務の対価に相当する額
 4. 商品をまだ渡していない場合(役務を提供する前である場合)には、契約の締結や履行に通常要する費用の額

これらに法定利率年6%の遅延損害金が加算されます。


7.訪問購入

◆訪問購入とは

訪問購入とは「押し買い」と言われる悪質商法の一つです。
「押し売り」の逆で、購入業者が消費者の所へ押しかけてきて消費者の物品などを強引に買い取って行く商法です。

業者がいきなり押しかけて来て、断ったにもかかわらず相場より低い金額のお金を置いて強引に商品を持って行かれた、などの被害が多くなっています。
特に貴金属や宝飾品などの被害が多くなっています。

業者は安く買って、高く売ることを目的としています。
買い取っていった業者の住所や連絡先などがわからず、トラブルに発展するケースが増えています。


訪問購入という取引形態への規制は、2010年以降に急増した貴金属の訪問買取(出張買取)によるトラブルに対応するものであり、従来までの特定商取引法では規制できなかった問題を改善するものです。
事業者が消費者の自宅等を訪問して、物品の購入を行う取引のこと。

訪問購入


◆訪問購入に対する規制

2012年8月に「押し買い」を「訪問購入」として特定商取引法の規制対象となりました。
規制対象となる「訪問購入」は次の要件をすべて満たした取引です。
 ①事業者による取引であること
 ②営業所などの以外での取引であること
 ③原則としてすべての物品が対象

原則としてすべての物品を規制対象としていますが、消費者の利益を損なうおそれがないと認められる物品や規制すると流通が害されるおそれがあるとみなされる物品は訪問購入の適用対象から除外されています。
 1. 自動車(二輪を除く)
 2. 家具
 3. 家電(洗濯機、冷蔵庫など)
 4. 本
 5. CDやDVDなどのゲームソフト
 6. 有価証券
また、消費者が自ら自宅での契約締結を請求した場合やいわゆる御用聞き取引などは適用除外とされています。


購入業者に対する不当な行為の規制

・事業者名および勧誘目的の明示義務。
事業者は、訪問購入を行うときには、勧誘に先立って、相手方に対して以下のことを告げなければなりません。
 1. 事業者の氏名(名称)
 2. 契約の締結について勧誘をする目的であること
 3. 購入しようとする物品の種類

・勧誘を希望しない者への勧誘禁止(不招請勧誘の禁止)
 事業者は、訪問購入に係る売買契約の締結についての勧誘の要請をしていない者に対し、相手方の自宅等で売買契約の締結について勧誘をし、又は勧誘を受ける意思の有無を確認してはいけません。いわゆる飛込み勧誘や、単に相手方から査定の依頼があった場合に、査定を超えて勧誘を行うことは、法に抵触することになります。

・勧誘を受ける意思の確認義務

・再勧誘の禁止
 事業者は、訪問購入を行うときには、勧誘に先立って相手方に勧誘を受ける意思があることを確認しなければなりません。
また、相手方が契約締結の意思がないことを示したときには、その訪問時においてそのまま勧誘を継続することや、その後改めて勧誘することが禁止されています。

・勧誘等で不実告知や事実不告知の禁止

・威迫による勧誘など困惑させる行為の禁止

・書面の交付義務
 事業者は、契約の申込みを受けたときや契約を結んだときには、以下の事項を記載した書面を相手方に渡さなければなりません。
 1. 物品の種類
 2. 物品の購入価格
 3. 代金の支払時期、方法
 4. 物品の引渡時期、方法
 5. 契約の申込みの撤回(契約の解除)に関する事項
 6. 物品の引渡しの拒絶(法第58条の15)に関する事項
 7. 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
 8. 契約の申込み又は締結を担当した者の氏名
 9. 契約の申込み又は締結の年月日
 10. 物品名
 11. 物品の特徴
 12. 物品又はその附属品に商標、製造者名若しくは販売者名の記載があるとき又は型式があるときは、当該商標、製造者名若しくは 販売者名又は型式
 13. 契約の解除に関する定めがあるときには、その内容
 14. そのほか特約があるときには、その内容

・物品の引渡しの拒絶に関する告知
 事業者は、クーリング・オフ期間内に売買契約の相手方から直接物品の引渡しを受ける時は、相手方に対して当該物品の引渡しを拒むことができる旨を告げなければなりません。

・クーリング・オフ
 1. 8日間のクーリング・オフ期間。
 2. 訪問購入の取引では、原則として全ての物品がクーリング・オフ対象となる。
 3. クーリング・オフ期間中は、物品の引渡しを拒絶して売主の手元に置くことが可能。
 4. クーリング・オフ期間中に業者が第三者に物品を再販売してしまった場合には、その第三者に対して物品の所有権の主張が可能。(第三者に対する物品の所有権の対抗)
ただし、物品の引渡しを受けた第三者が事情を知らなかった場合(善意無過失)は所有権の対抗はできない。

・通知義務・告知義務
 1. クーリング・オフ期間中に第三者に物品を引き渡した場合には、売主に対して第三者への引渡しの情報を通知することを義務化。
 2. クーリング・オフ期間中に第三者に物品を引き渡す際には、物品がクーリング・オフされる可能性があることを通知することを義務化。
 3. 売主に対して、クーリング…オフ期間中は物品の引渡しの拒絶をする権利があることを告知する義務。

●違反業者への措置
・業務停止命令などの行政処分。
・悪質な違法行為には、懲役や罰金の対象。


8.ネガティブ・オプション

◆ネガティブ・オプションとは

 ネガティブ・オプションとは、購入の申し込みもしていないにもかかわらず、一方的に商品を送りつけて、商品の返品や購入しないの旨の通知がない限り、その商品を購入したものとみなすとしてその代金を請求する商法をいいます。

いわゆる「送り付け商法」といわれるもののことです。

例えば、頼んでもいないのに突然事業者から健康食品が送られてきて「購入しない方は○日以内に返送してください。返送なきときは購入されたものと扱います。」などというのが典型的な事例です。

また、商品購入の申し込みをした消費者に対して、申し込みをしていない商品についてまで売買契約の申し込みをして商品を送り付けるという手口のものもこれに含まれます。


◆ネガティブ・オプションと規制

 売買契約に限らず、契約というものは本来お互いの合意がなければ成立しないものです。
つまり買う気のない人に一方的に商品を送り付けただけでは、契約は成立していません。
そのため、ネガティブ・オプション(送り付け商法)については、商品を受け取る必要がないので受領拒絶をすれば足りますし、仮に受け取ったとしても承諾の意思表示をしないかぎり、売買契約は成立しないので代金の支払い義務もありません。
また、契約自体が成立していない訳ですから、クーリング・オフの必要もない訳です。


●返却請求権の喪失
 ネガティブ・オプションでは、消費者は受け取った日から14日間(商品の引き取りを販売業者に請求した場合は請求日から7日間)を過ぎても販売業者が引き取りにこなければ,商品の返還に応じる必要もないとされています。

●商品の保管義務
 消費者に送り付けられた商品は、購入の承諾をしない限り売買契約は成立していないため、その所有権はまだ事業者のものであるので、消費者は勝手に処分をすることはできません。
ただし、上記の期間を過ぎた場合は、消費者が自由に処分してよいことになっています。
それまでは「自己の財産と同一の注意」もって保管しなければなりません。
ただ、その保管期間中に商品を使用してしまうと、購入の意思があるとみなされ契約が成立してしまい、返品もできなくなるので注意が必要です。

●クーリング・オフ
 ネガティブ・オプションはその性質上基本的にクーリング・オフは認められていませんが、例外もあります。
注文していない商品が送られてきた後に、事業者から電話があり購入を勧められたり、代金を請求されたりして契約を結んでしまった場合などですが、その場合は、「電話勧誘販売」に該当するので契約書の書面受領の日から8日間はクーリング・オフできることになります。

●注意が必要な手口
 平日の昼間に自宅に夫あてに代金引換郵便で商品が発送されてきた場合、「主人が何か頼んだのかしら…」とその場で確認をすることなく、代金を支払ってしまうことがあり、これが業者の狙いなのです。

代金引換郵便を悪用した送りつけ商法
・代金引換郵便とは、郵便局が行っているサービスで、配達の際、郵便物と引換えに、差出人指定の代金を受取人から預かり、 郵便振替または郵便為替で差出人に送金するというものです。
・郵便局では、受取人が一度受け取った品物については、返品や返金に応じないとしているので、受け取りの際に、差出人名や品名、引換え金額をよく確認する必要があります。
・たとえ相手側との契約が成立していなくても、一度代金を支払ってしまえば、それを取り返すのは困難です。
・自分、もしくは家族が注文した品物であることを確認することができなければ、受け取りを保留することができます。
・その場合、1週間は郵便局が保管してくれます。まったく心当たりのない品物は、受取拒否をするのが良いでしょう。


割賦販売法

◆割賦販売法とは

 割賦販売とは要するに分割払いで商品を販売することです。
家具、自動車、ブランド品などの高価なものを購入するときにその代金を一括で支払うより分割で支払うことが多いと思います。
この売買代金の支払いを分割して支払うことを条件とした販売方式のことを割賦販売といいます。

戦後の日本では、その経済成長に伴い割賦販売も普及し、それに伴うトラブルが多発するようになりました。
割賦販売はその支払方法や割賦金利など複雑なルールがあるため、それを知らずに利用する消費者がトラブルに巻き込まれることが多かったわけです。

そこで、当事者が不利益を被らないようにルールを定めた割賦販売法が、1961年(昭和36)に制定され、その後幾度かの改正を経て今日に至っています。


●割賦販売法の適用される取引

取引 対象 支払条件
①割賦販売
指定商品・指定権利・指定役務に限定
2か月以上にわたり、かつ3回以上に分割して払うもの
②ローン提携販売
指定商品・指定権利・指定役務に限定
2か月以上にわたり、かつ3回以上に分割して払うもの
③包括信用購入斡旋
商品と役務のすべてと指定権利
2か月以上にわたるものであれば1回払い・2回払いも対象
④個別信用購入斡旋
商品と役務のすべてと指定権利
2か月以上にわたるものであれば1回払い・2回払いも対象
⑤前払い式特定取引
指定商品と政令で定める役務
2か月以上にわたり、かつ3回以上に分割して払うもの
①割賦販売

物品やサービス等の代金を、分割で支払うことを約束して行われる売買ですが、割賦販売法での規定された要件を満たしている必要があります。
つまり、事業者が商品などの対価を2ヶ月以上の長期にわたり、かつ3回以上に分割して受領することを条件にしている場合で、対象となる商品や役務も法令で規定されています。
売主と買主の間で第三者を挟まずに直接行われるもので、「自社割賦」とも呼ばれます。

②ローン提携販売

自動車などの高額商品購入時に、ディーラーなどで紹介された金融機関のローンを組んで取引をすることがあります。このような、事業者と提携している金融機関を介しての販売形態をローン提携販売といます。
買主のローン返済が滞った場合には、事業者たる売主が金融機関に対し保証債務を履行しなければなりませんが、最初から代金を受け取れないというリスクはありません。

③包括信用購入斡旋

消費者が商品の購入やサービスの提供を受ける際に、購入した商品等の代金をクレジット会社が立て替えて販売会社に支払い、後日、消費者がクレジット会社に支払うというものでいわゆるカードショッピングのことです。
契約の当事者は、消費者、販売会社、クレジット会社の3者で、消費者の信用に基づいて事前に発行されたカードを使って消費者は商品を購入したり、サービスの提供を受けることができます。

④個別信用購入斡旋

消費者が販売業者から商品等を購入する際に、取引ごとにクレジット会社と契約を行う方式を、「個別信用購入斡旋(個別クレジット)」といいます。
包括信用購入斡旋と違いクレジットカード決済ではないので商品を買うたびに個別に契約する必要があります。
消費者にはカードを持っていなくても目的とする商品を購入できるという利点がありますが、その場合、使うクレジット会社(カード)は販売会社の都合で決まることが多く、消費者自からは選べません。

包括方式の信用購入斡旋のしくみ


個別方式の信用購入斡旋のしくみ

⑤前払い式特定取引

経済産業大臣の許可を受けた特定の事業者に対し、会費などの名目で代金を支払うことにより、特定の物品やサービスの提供を受けることができる取引をいいます。
「冠婚葬祭互助会」や「友の会」がこれにあたります。

●冠婚葬祭互助会(許可事業者数:261社)

冠婚葬祭サービスの提供又は取り次ぎを受けるに先立って、毎月一定額(3000円×50回で15万円)を積み立てる取引方法。
満期後に通常価格より安い値段でサービスを利用できるのが特徴。
実際の冠婚葬祭は、自社で行うものと提携先に取り次いで行うものがある。

●友の会(許可事業者数:105社)

百貨店などの商品取り次ぎを受けるに先立って、毎月一定額(10000円×12回)を積み立てる取引方法。
満期時に一定額のボーナスを付したお買物券等を受領できるのが特徴。
百貨店などが顧客の囲い込みなどの目的で行う会員サービスで、子会社などによって行われるのが通常。

注)このほか、ミシンや布団など指定商品の販売を受けるに先立って、毎月一定額を積み立てる取引方法が「前払式割賦販売」として規定されているが、近年は社会的ニーズが少なくなり、許可事業者は1社のみとなっている。

種類 指定されている対象物
指定商品
1. 動物および植物の加工品(一般の飲食の用に供されないものに限る。)であって、人が摂取するもの(医薬品を除く。)
2. 真珠ならびに貴石および半貴石
3. 幅が十三センチメートル以上の織物
4. 衣服(履物および身の回り品を除く。)
5. ネクタイ、マフラー、ハンドバック、かばん、傘、つえその他の身の回り品および指輪、ネックレス、カフスボタンその他の装身具
6. 履物
7. 床敷物、カーテン、寝具、テーブル掛けおよびタオルその他の繊維製家庭用品
8. 家具およびついたて、びょうぶ、傘立て、金庫、ロッカーその他の装備品ならびに家庭用洗濯用具、屋内装飾品その他の家庭用装置品(他の号に掲げるものを除く。)
9. なべ、かま、湯沸かしその他の台所用具および食卓用ナイフ、食器、魔法瓶その他の食卓用具
10. 書籍
11. ビラ、パンフレット、カタログその他これらに類する印刷物
12. シャープペンシル、万年筆、ボールペン、インクスタンド、定規その他これらに類する事務用品
13. 印章
14. 太陽光発電装置その他の発電装置
15. 電気ドリル、空気ハンマその他の動力付き手持ち工具
16. ミシンおよび手編み機械
17. 農業用機械器具(農業用トラクターを除く。)および林業用機械器具
18. 農業用トラクターおよび運搬用トラクター
19. ひょう量二トン以下の台手動はかり、ひょう量百五十キログラム以下の指示はかりおよび皿手動はかり
20. 時計(船舶用時計、塔時計その他の特殊用途用の時計を除く。)
21. 光学機械器具(写真機械器具、映画機械器具および電子応用機械器具を除く。)
22. 写真機械器具
23. 映画機械器具(八ミリ用または十六ミリ用のものに限る。)
24. 事務用機械器具(電子応用機械器具を除く。)
25. 物品の自動販売機
26. 医療用機械器具
27. はさみ、ナイフ、包丁その他の利器、のみ、かんな、のこぎりその他の工匠具およびつるはし、ショベル、スコップその他の手道具
28. 浴槽、台所流し、便器その他の衛生器具(家庭用井戸ポンプを含む。)
29. 浄水器
30. レンジ、天火、こんろその他の料理用具および火鉢、こたつ、ストーブその他の暖房用具(電気式のものを除く。)
31. はん用電動機
32. 家庭用電気機械器具
33. 電球類および照明器具電球類および照明器具
34. 電話機およびファクシミリ
35. インターホーン、ラジオ受信機、テレビジョン受信機および録音機械器具、レコードプレーヤーその他の音声周波機械器具
36. レコードプレーヤー用レコードおよび磁気的方法または光学的方法により音、影像またはプログラムを記録した物 37. 自動車および自動二輪車(原動機付き自転車を含む。)
38. 自転車 39. 運搬車(主として構内または作業場において走行するものに限る。)、人力けん引車および畜力車
40. ボート、モーターボートおよびヨット(運動用のものに限る。)
41. パーソナルコンピュータ
42. 網漁具、釣漁具および漁綱
43. 眼鏡および補聴器
44. 家庭用の電気治療器、磁気治療器および医療用物質生成器
45. コンドーム
46. 化粧品
47. 囲碁用具、将棋用具その他の室内娯楽用具
48. おもちゃおよび人形
49. 運動用具(他の号に掲げるものを除く。)
50. 滑り台、ぶらんこおよび子供用車両
51. 化粧用ブラシおよび化粧用セット
52. かつら
53. 喫煙具
54.楽器
指定権利
1. 人の皮膚を清潔にし、若しくは美化し、体型を整え、または体重を減ずるための施術を受ける権利
2. 保養のための施設またはスポーツ施設を利用する権利
3. 語学の教授を受ける権利
4. 学校教育法第一条に規定する学校(小学校および幼稚園を除く。)、同法第八十二条の二に規定する専修学校若しくは同法第八十三条第一項に規定する各種学校の入学者を選抜するための学力試験に備えるためまたは学校教育(同法第一条に規定する学校(大学および幼稚園を除く。)における教育をいう。次号および別表第一の三において同じ。)の補習のための学力の教授(次号に規定する場所以外の場所において提供されるものに限る。)を受ける権利
5. 入学試験に備えるためまたは学校教育の補習のための学校教育法第一条に規定する学校(大学および幼稚園を除く。)の児童、生徒または学生を対象とした学力の教授(役務提供事業者の事業所その他の役務提供事業者が当該役務提供のために用意する場所において提供されるものに限る。)を受ける権利
6. 電子計算機またはワードプロセッサーの操作に関する知識または技術の教授を受ける権利
7. 結婚を希望する者を対象とした異性の紹介を受ける権利
指定役務
1. 人の皮膚を清潔にし、若しくは美化し、体型を整え、または体重を減ずるための施術を行うこと。
2. 保養のための施設またはスポーツ施設を利用させること
3. 家屋、門または塀の修繕または改良
4. 語学の教授
5. 入学試験に備えるためまたは学校教育の補習のための学力の教授(次号に規定する場所以外の場所において提供されるものに限る。)
6. 入学試験に備えるためまたは学校教育の補習のための学校教育法第一条に規定する学校(大学および幼稚園を除く。)の児童、生徒または学生を対象とした学力の教授(役務提供事業者の事業所その他の役務提供事業者が当該役務提供のために用意する場所において提供されるものに限る。)
7. 電子計算機またはワードプロセッサーの操作に関する知識または技術の教授
8. 結婚を希望する者を対象とした異性の紹介
9. 家屋における有害動物または有害植物の防除
10. 技芸または知識の教授
前払式特定取引の指定役務
婚礼(結婚披露を含む)のための施設の提供、衣服の貸与その他の便益の提供およびこれに付随する物品の給付または葬式のための祭壇の貸与その他の便益の提供およびこれに付随する物品の給付
従来の法律だと、指定された商品とサービスに対して、特定商取引法と割賦販売法が適用されました。

逆に言えば、指定対象外の商品とサービスを取り扱うのであれば、法律の規制を受けずに済むとも解釈できます。
その結果、法の抜け道を使って悪徳商法が登場する余地がありました。

そこで改正特定商取引法及び改正割賦販売法により、この商品やサービスの指定を廃止してしまいました。

平成20年に成立した改正割賦販売法においては、指定商品・指定役務制が廃止され、基本的にすべてのクレジット取引を規制対象とする包括規制方式が導入されました。
○販売業者、役務提供事業者が自ら割賦販売を行う場合については、引き続き指定商品・役務・権利制を維持する。
○割賦購入斡旋について指定商品・役務制の見直しを行い、原則、あらゆる商品、役務について規制の適用範囲とする見直しを行う。


いわゆる自社割賦(割賦販売)、ローン提携販売については現在までのところ消費者トラブルが発生していないため、従来通り、指定商品・指定役務制を維持しています。

●支払方法

販売会社から商品の引渡しなどがされたら、消費者は分割払いやリボルビング払いで代金を支払っていくという流れになります。

リボ払いと分割払いの大きな違いは、毎月の支払額を指定するか、買い物ごとの支払回数を指定するかです。

リボ払いの場合、毎月の支払額が自分であらかじめ設定した金額に固定されます。利用残高がいくらであるかは関係ありません。

一方、分割払いの場合は、利用金額を何回払いにするかによって毎月の支払額が変わります。たとえば、10回払いを選択した場合、1万円の商品であれば月々1,000円+分割払手数料、3万円のものであれば月々3,000円+分割払手数料と、利用金額と支払回数によって月々の支払金額が変化します。

そのため、リボ払いと分割払いでは、返済期間も異なります。
分割払いは返済回数があらかじめ設定した回数に決まっており、たとえば10回払いであれば10ヶ月で返済することになります。
一方、リボ払いの場合、支払金額が一定のため、利用残高によって返済期間も変わります。

一般的には、利用金額が大きければ大きいほど、支払期間は長くなるでしょう。

カードの上限額の範囲内であれば、毎月の返済額が一定のため消費者にとっては安心感も大きいですが、その分借り過ぎてしまうなどのトラブルも起きやすくなっています。

また、借入額が多くなると当然返済期間も長くなるので、利息の負担が大きくなったり、どのくらい利息があるのかということがわかりにくくなったりという問題もあります。

●所有権留保

所有権留保とは、売主が売買代金を担保するため、代金が完済されるまで引渡しの終えた目的物の所有権を留保するもの。

つまり、目的物の引き渡し後も所有権を売主にとどめて、目的物を担保とするもので、おもに家電製品や車など主に動産の売買に使われます。
売買契約中の特約により行われる。非典型担保の一つである。主な具体例は以下の通り。

・クレジットカードによる商品購入: カード会員規約の条項に従い、代金完済までカード会社に所有権が留保されるのが通例である。
・割賦販売: 売買契約等の条項に従い、代金完済まで売主または信販会社に所有権が留保されるのが通例である。
なお、割賦販売における所有権留保は割賦販売法の規定により一定の規制を受けることになる。

所有権留保の実行方法は、売買契約を解除して、目的物を取り上げるということになります。
支払った代金と目的物の価値のバランスで、清算が必要になると考えられますが、動産の場合は、使用により市場価値はかなり低下していることが普通なので、清算義務が生じないことが多いです。


◆割賦販売法で規定されていること

【購入者ができること】

1.クーリング・オフ

 訪問販売等注)において割賦販売の方法によって,指定商品等の申込みを受け,その申込みを受けた者は,法定の一定期間内であれば,無条件で,申込みの撤回又は契約の解除を行うことができます。

 注) 訪問販売の他、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務、業務提供誘引販売取引を含みます。クーリング・オフの内容は訪問販売と重複する部分については特商法を優先とする。

クーリング・オフ
 個別クレジットは手元に現金やクレジットカードがない場合でも、商品等を購入できるという点で便利でしたが、その反面、「消費者が支払い能力を超える長期間の返済を迫られる」「販売会社に騙された」といったトラブルも多発していました。

個別クレジット業者は、販売業者と密接な関係を持っていることが多く、販売業者の悪質な勧誘によって得た利益の配分に預かっているケースもあり、消費者被害を拡大させる要因ともなっていました。

そのため平成20年の改正で消費者保護を図るため、個別クレジット契約については大幅な制度の見直しが行われました。

以前は、特定商取引法によってクーリング・オフできる場合も、クレジットについては支払停止の抗弁を主張できるだけでしたが、改正後は個別クレジット契約自体もクーリング・オフできることになりました。

消費者は、個別クレジット業者に対して、個別クレジット契約をクーリング・オフすると、販売契約も基本的にクーリング・オフされたものとして取り扱われます。

ただし、2ヶ月を超えない一括支払い(マンスリークリア)の包括信用斡旋契約(クレジットカード取引)については、クーリング・オフの適用除外とされています。

割賦販売法は特定商取引法と連動して消費者保護をはかっているので、特定商取引法がクーリング・オフの適用除外とされている商品や役務については、割賦販売法の個別クレジット契約におけるクーリング・オフにおいても適用除外とされています。

個別クレジット業者に対してクーリング・オフを行うと、その旨が販売業者にも伝えられます。消費者としては、販売業者に対して、個別クレジット契約をクーリング・オフしたことで、販売契約もクーリング・オフされたものとみなされることになります。
そして、消費者は頭金の返還等原状回復を求めることができます。

ここで注意しておきたいのは以下の2つのケースではクーリング・オフは適用されません

・割賦販売における契約の申込者又は購入者が、その契約を営業のためもしくは営業として締結する場合
・売買契約の対象が、自動車・自動車リース、葬儀、化粧品などの消耗品 などの場合

◆クーリング・オフの効果(清算ルール)

1. 個別クレジット契約がクーリング・オフされると、購入者等が反対の意思表示をしている場合を除き、 販売契約もクーリング・オフされます。
2. 個別クレジット業者は、クーリング・オフに伴なう損害賠償又は違約金を請求することはできません。
3. 販売業者は、クーリング・オフがあった時点で既に立替金を受領しているときは、これを個別クレジット業者に返還しなければなりません。
4. 個別クレジット業者は、クーリング・オフがあった時点で既払金があるときは、これを購入者等に返還します。

クーリング・オフの効果(清算ルール)

2.抗弁の対抗

 割賦購入斡旋またはローン提携販売を利用して商品等を購入したものの、「販売業者から商品の引渡しがされなかったり、売買契約上トラブルが生じた場合、購入者は、販売業者との間で生じている事由をもって,信販会社等に対して支払いを拒むことができます。これを抗弁権といいます。

ただし、2ヶ月を超えない一括支払い(マンスリークリア)の包括信用斡旋契約(クレジットカード取引)については、この支払い停止抗弁は適用されません。

クレジット販売契約は、販売業者と消費者、クレジットカード会社の3者間契約となっているため、消費者と販売業者との間で起こったトラブル内容を消費者がクレジット会社にも対抗する必要があります。

そこで消費者が販売業者に対して主張することの出来る取り消しやクーリング・オフなどの抗弁権について、クレジット会社に対しても主張できるという「抗弁権の接続」が認められています。

この「抗弁権の接続」により、消費者と販売業者との間でトラブルが起こり、消費者が販売業者に対してクーリング・オフを行使した場合は、同時にクレジット契約も解除されることになります。

ただし、商本当の支払総額が4万円未満の場合には抗弁権の接続が認められないため、クレジット会社に対して抗弁権は主張できません。


支払停止抗弁権を適用できる場合

支払停止抗弁権を適用できる要件は割賦販売法により、次のように定められています。

・割賦購入斡旋契約(クレジット契約)であること
・指定商品・指定権利・指定役務であること
・2カ月以上の期間にわたる3回以上の分割払いであること
・販売業者に対し抗弁事由があること
・支払総額が4万円以上であること
(クレジット契約がリボルビング方式の場合は、3万8000円以上であること)
・購入者(契約者)にとって商行為とならないこと
(事業者の契約や商行為の場合は適用されません)

販売業者に対する、支払停止の「抗弁事由」

支払停止抗弁権は、前項で触れたように販売業者に対し「抗弁事由」がある時に主張できます。抗弁事由は消費者保護の観点から「可能な限り広く解釈するべき」という通達が出ております。
ただし、消費者側の一方的な都合による合意解約の場合は、抗弁事由に該当しません。

【支払停止抗弁権を主張できる抗弁事由】

・売買契約が成立していない場合
・商品の引渡しが無い
・商品に欠陥がある、あるいは見本やカタログと明らかに異なっている
・商品の販売条件となっている役務の提供がなされない
・販売業者側に債務不履行がある
・売買契約が取消しできる場合(詐欺・脅迫・未成年者など)
・売買契約が無効となる場合(錯誤など)
・特定継続的役務の中途解約による支払停止の場合
・クーリング・オフで売買契約を解除できる場合
・・・など


【販売業者に対する規制】

1. 販売条件(取引条件)の表示義務
 販売業者がクレジット販売等を行うとき,現金販売価格等,割賦販売価格等,代金の支払期間・実質年率等を購入者の見やすい方法で表示しなければなりません。

2. 書面の交付義務
 販売業者は,法定の内容を記載した契約書面の交付が義務付けられています。

その内容は
販売条件(取引条件)の表示の他に、以下の事項を記載した書面を交付しなければならない。

①包括信用購入斡旋業者の名称及び住所又は電話番号並びに包括信用購入斡旋関係販売業者又は包括信用購入斡旋関係役務提供事業者の名称
②契約年月日
③支払分の支払回数
④包括信用購入斡旋関係受領契約について購入者等が問合わせ、相談等を行うことができる機関の名称及び住所又は電話番号
⑤包括信用購入斡旋業者に対する抗弁に関する事項
⑥包括信用購入斡旋関係受領契約の解除に関する定めがあるときは、その内容
⑦支払時期の到来していない支払分の支払を請求することについての定めがあるときは、その内容
⑧支払分の支払の義務が履行されない場合(包括信用購入斡旋関係受領契約が解除された場合を除く。)の損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときは、その内容
⑨前各号に掲げるもののほか特約があるときは、その内容


3. ダイレクトメール契約の解除等の制限
 割賦販売業者等が,割賦金等を支払わない購入者に対して、契約の解除をしたり,残金の一括請求をすることができるのは、20日以上の相当の期間を定めて、その支払を書面で催告し,その期間内に支払がないときに限られています。

4. 契約の解除等に伴う損害賠償等の額の制限
 契約が解除された場合,割賦販売業者等が購入者に対して請求できる損害賠償金や違約金については,購入者に不当に不利益にならないように制限されています。

5. 支払い能力を超える購入の防止
 割賦販売業者等は,信用情報機関を利用すること等により得た正確な情報に基づいて,購入者の支払い能力を超えると認められる場合に,割賦契約をしないように努めなければなりません。
ただし、これは,訓示規定(違反したとしても、その行為や効力に影響を与えません。)であって、義務ではありません。

6. 経済産業省への登録の義務化
 決済代行業者(クレジットカード会社)は経済産業への登録が必要となりました。それによりカード会社は加盟店契約を結んでいる販売店の、事業者としての適切性・安全性を義務付けられました。

7. 加盟店審査義務と情報管理義務
 ショッピングクレジットを利用する場合、加盟店が倒産したり、悪徳販売店だったりという理由で消費者に被害が及ぶことがあります。
これを防止するために信販会社やクレジットカード会社には加盟店の経営状態を把握して審査する必要があります。

また、加盟店契約後も途上与信を行い、経営状態が維持されているか、クレジットの不正利用をしていないかという審査の義務もあります。

そのため加盟店情報を共有するために「加盟店情報センター」(JDM)を設立しています。

JDMでは加盟店契約をする時に、クレジットカード会社や信販会社に情報提供しているほか、途上与信でも以下の情報を提供しています。

1. 加盟店頭に係る苦情処理のために必要な調査の事実及び自由
2. 利用者等の保護に欠ける行為をしたことを理由としてクレジット契約を解除した事実及び自由
3. 利用者等の保護に欠ける行為に該当した客観的事実
4. 利用者から申出のあった内容で利用者の保護にかける行為であると判断した情報(疑わしいものも含む)情報
5. 行政機関が公表した事実とその内容(法律違反など)
6. 当該加盟店の名前、住所、電話番号及び営業開始日

販売形態 規制内容
割賦販売・ローン提携販売
前払式割賦販売
・指定商品、指定役務に関して条件の明示、書類の交付、契約解除の制限等の規制
・前払式取引を行う前払式割賦販売業の許可制
個別信用購入斡旋販売
・クーリング・オフ制度
・過量販売による取消権
・不実告知等による既払い金の返還
・登録制度
・個別支払い可能見込額を超えた与信契約の禁止
・加盟店のクレジット会社による審査義務
包括信用購入斡旋販売
・販売条件の明示
・支払可能見込額を超える場合カード等の交付禁止
・書面の交付義務
・契約の解除、損害賠償額の制限
・クレジット会社に対する抗弁権
・クレジット会社に対する登録制度
参考
三修社 消費者契約法・特定商取引法・割賦販売法の法律知識
日本評論社 特定商取引法ハンドブック


2021年01月11日